コラム
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2002年 11月分 vol. 8
かぐや姫の「宇宙服」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

写真 「月」のコンサートに行ってきました。
11月20日、東京・四谷の紀尾井ホール。「月」をテーマにした曲なら邦楽も洋楽も聴いちゃいましょうというユニークな企画で、対談まである。ゲストは宇宙飛行士の毛利衛氏。

 私の1冊目の本「エク! 赤道におりた宇宙飛行士」(毛利衛と仲間たち著)を一緒に作って下さったフリーの編集者ユキコさんがこのホールの出版物の仕事をされていて、今回の対談実現にも一役かっている。これは絶対行かなくちゃ。こんな機会がなければ邦楽ってなかなか聞かないものね。吉田兄弟や津軽三味線にミーハーな興味を持つ私ごときは。

 コンサートはベートーヴェン「月光」のピアノと尺八による演奏で幕を開けた。ドビュッシーの「月の光」など定番の曲が続き、観客を満足させる。その心を激しくかき立てたのが、「竹取物語」の語りだった。

 語り部はかぐや姫を思わせるような見目麗しい女性。情景描写のように入る尺八がシブイ。太さ、長さの違う4本の尺八を使い分け、風の音や月からかぐや姫を迎えにきた天人たちの様子まで表現してしまう。物語の世界に引き込まれるうち、「月に帰る姫のお話」という漠然としたイメージしか持っていなかった竹取物語に、気になるテーマを発見。

 たとえば。月から迎えがきた天人がもってきた「天の羽衣」。羽衣を着ると人間の心は消え、天人の心になってしまうらしい。かぐや姫は羽衣を着る前に帝に手紙を書きたいと言い出した。天人が「遅い」と言うとかぐや姫は「情けのないことを言いなさるな」。このセリフは印象的だった。天人=宇宙人は「情け」をもたない人たちなの? ユキコさんは「天人は地球人の情けを超越したものをもってるんじゃないのかな」と言う。そうかもしれない。かぐや姫を守ろうとした武士たちの戦意を、天人は光で喪失させてしまうのだから。

 もう一点。赤ちゃんの時から翁に育てられ、地球人の情けを学習したはずのかぐや姫がなぜ「羽衣を着たら人間の心が消える」という天人の常識を知っている? 毛利さん曰く「かぐや姫のDNAに書き込まれているんだよ」。うーむ、毛利さんお得意のDNAときたか・・・。

 今から1000年以上も前にかかれた日本最古のSF「竹取物語」は、現代でも十分語りあえるテーマを含み、奥が深い。