コラム
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2002年 12月分 vol. 1
宇宙で「心にしみる」音
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

写真 宇宙旅行に行くとき、手荷物はかなり制限されるに違いない。みんながこそっと荷物をごまかして宇宙船が重くなると、発射できないんだから。きっと手荷物検査で厳しーく、チェックされるはずだ。

 限られた荷物の中で何を持っていくか、迷うよね。携帯電話か、カメラか、日本食か…・・・。実は宇宙飛行士たちが必ずと言っていいほど持っていく私物がある。それは「音楽」。

 毛利さんが1992年に宇宙飛行をしたときには、カセットテープを5本まで持っていってよかった。一人一人にウォークマンが支給されイヤホンで聴いたそうだ。2000年の2回目のフライトのときはディスクマンに進化し、CDを25枚持っていった。

 そのうちの1枚が、坂本龍一氏がセレクトしたCD「mission」。坂本さんが宇宙で聞いてみたい12曲を納めた、地球上で1枚だけのCD。その中で毛利さんが宇宙で特に印象に残っているのは「アクセプタンス」のアルトの肉声と「シャルタリングスカイ」のチェロの音色だった。

 「アクセプタンス」はベルトリッチの映画「リトル・ブッダ」のためにかかれた音楽。毛利さんは、真っ白い雪に覆われたシベリアの大地に夕暮れがせまる風景を眺めながら「アクセプタンス」を聞き、女性の肉声が心に染み渡ったという。(ちなみに歌っているのはサンスクリット語の般若心経。色即是空・・毛利さんは言葉の意味は知らなかった。)

 そして「シェルタリング・スカイ」のチェロの音。サハラ砂漠をテーマにしたこの映画でチェロが出てくるのは砂漠の奥、見渡す限り砂丘が広がるシーン。チェロは坂本さんのお気に入りの楽器でもあるそうだが、その周波数は人間の声にとても近いらしい。

 宇宙空間は空気がない真空の世界だから、音がない。でもスペースシャトルや宇宙ステーションの中は人間のために空気がある。しかも空気を循環させるエアコンの音が常にしている。ただし、1日に2回エアコンをとめる時間がある。二酸化炭素を吸収するフィルターを交換するため。そのとき完全な静寂が訪れる。

 宇宙で体験する「完全な静寂」。ゾクっとするね。それこそ新しい音の体験かもしれない。