コラム
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2002年 12月分 vol. 5
バラが放つ「宇宙ならでは」の香り
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙で咲いた「オーバーナイトセンセーション」。ミニバラには珍しく芳香があることから宇宙飛行に選ばれた。(提供:IFF社) 宇宙ホテルでチェックインするとき。ロビーに「バラの花」が飾られていたら。しかも地上では経験したことのない「宇宙ならでは」のかぐわしさが漂っていたら。「あぁ、宇宙に来たんだワ・・・」なんてあなたの体全体に、甘美な喜びがかけめぐるはず。

 これは空想の世界じゃない。宇宙ではバラの香りが地上よりもソフトで香しくなることが、1998年10月~11月にスペースシャトルで行われた向井千秋さんたちの実験でわかっている。飛行したのはミニバラの一種、「オーバーナイト センセーション」。

 実験はアメリカの企業「インターナショナル フレーバー & フレグランス(IFF)」社とNASAなどが共同で行った。目的は香り成分が無重力の宇宙でどう変わるかを調べること。何種類もの花が候補にあがったけれど「世界中の人に愛されている」という理由でバラが選ばれた。約10日間の飛行中に開花すること、打ち上げ時にかかる約4Gの重力に耐えることなどの条件があったが、バラの宇宙飛行は初めて。未知な部分も多かった。

 飛行中に一輪咲けば成功と思われていたが、2輪の花が見事に開いた。向井千秋さんは「人工的な環境の中でバラの花を見られるのは最高に幸せ」とコメントした。宇宙バラの香りは地上よりかぐわしく、宇宙飛行士たちにヒーリング効果をもたらしたそうだ。実際、特殊な針を使って花弁のすぐ上の「におい分子」を採取して分析したところ、においを構成する3つの化学成分に顕著な変化が現れていた。

 宇宙バラの香りを資生堂が再現し「スペースローズ」という香料を開発、スペースローズを配合したフレグランス「資生堂 ZEN」を2000年10月から販売開始した。ZENは伽羅・竹・苔の素材を配合し禅文化を現代風にアレンジしたそうだが、その中に「made in space」のバラの香料が入るって、ユニーク。

 ところで、「オーバーナイト センセーション」を植樹したいと、がんばっている自治体がある。埼玉県川口市は2003年5月にオープンする「川口サイエンスワールド」に「平和な未来」の花言葉をもつこのバラを植えようと計画。向井さんたちと宇宙飛行したバラの苗木か種をわけてもらえるようIFF社に交渉中。難航しているようだが「やっぱり実際に宇宙に行ったバラの子孫がいいですから」と担当者はさらに交渉を続ける意気込みだ。



インターナショナル フレーバー&フレグランス(IFF)」社
http://www.iff.com/Internet.nsf/HomePage!OpenForm