コラム
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2003年 1月分 vol. 4
「きつねの嫁入り」が普通のいなりずしと違うわけ
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「きつねの嫁入り」は左のレトルトパックに入って宇宙に行った。宇宙食に加工するとき、ご飯のふわっとした食感を出すのに苦労したそう。 石塚ナツ子さんは、もう料理コンクールはリタイヤしたはずだった。1993年11月に「向井さんの宇宙料理」コンテストの募集記事を見るまでは。それまでに数々の料理コンクールでグランプリをとっていて「料理仲間から嫌われちゃうから(笑)、最後の目標をクリアしてもうコンクールには応募しないと決めたんです」。その最後の目標とは「牛乳・乳製品利用コンクール」。4回目の挑戦となった1991年、鯉(こい)を牛乳と味噌で煮た「鯉の乳(にゅう)ハーモニー」で農林水産大臣賞を受賞。コンクールから卒業した。

 ところが何気なく開いた新聞で向井千秋さんが宇宙にもっていく和食募集の記事を「見てしまった」。「和食が宇宙へ行くなんて夢がある」と石塚さんは応募を決意。宇宙で忙しい向井さんが手軽に食べられるようにと、「きつねの嫁入り」(いなりずし)や「銀河の流れ」(おにぎり)など数点を応募した。

 童話作家でもある石塚さんは、料理の名前やストーリーを考える時が楽しいそうだ。いなりずしは、石塚さん以外にも多数の応募があったらしいが、月の神話が食材に反映されているアイデアや「きつねの嫁入り」というユニークなネーミングが受賞の鍵になった。

 石塚さん宅でムービー撮影終了後、DSPACE取材班は「きつねの嫁入り」を頂くことになった。鶏肉はこくがあり、しいたけと高野豆腐のふわっとした食感でボリューム感があって美味しいのはもちろん、栄養と力が体にみなぎる感じ。桜湯を飲み、自家製のお漬物をかじり・・・これまで○○研究所とか○○大学などややカタメの取材が多かったDSPACE取材班は、石塚家のリビングルームですっかりくつろいでしまった。

 石塚さんの創作料理をたずねると、コーラで鶏肉を煮込んだ「コケッ コーラ」とかレトルトパックの赤飯に野菜をはさんだ「おもしろ飯バーガー」とか、超ユニークなものばかり。「素材の組み合わせって星の数でしょ。ミスマッチの意外さが楽しいの。」このあたりがコンクール必勝の秘訣かな? でもそれだけじゃない。「いいお嫁さんになるのが夢だった」という石塚さん。ご主人は食材の買い物を手伝い、石塚さんの新作料理を最初に食べる。コンクールに落ちたときも叱咤激励。「私を育ててくれたのは夫なんですよ」の一言にジーン。料理の原点はやっぱり「愛」だね。