コラム
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2003年 2月分 vol. 4
宇宙飛行士会議と99歳のスキーヤー
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙飛行士会議の会見に集合した世界の宇宙飛行士たち。左から3人目は宇宙滞在748日の記録をもつロシアのアヴデーエフ飛行士。日本科学未来館で。 10月に世界から70人の宇宙飛行士がやってくる。その名も「世界宇宙飛行士会議」。東京・お台場の日本科学未来館で2月19日に行われた記者会見を取材してきた。

 ずらりと並んだ日・米・露・カザフスタンの7名の宇宙飛行士たち。彼らはみな「宇宙探検家協会」に所属している。地球を1周以上することが入会資格で世界に約300名の会員がいるという。毎年会議を行い、今回が18回目。会議の委員長となる毛利飛行士は「コロンビア号の事故後、子供たちからなぜ宇宙に行くのかと聞かれる。世界の宇宙飛行士の体験を生で聞き多くの人たちと話し合いたい」と語った。10月12日~17日の期間中には東京から花巻、広島、鹿児島など日本各地を訪れる予定だ。

 さて、プレスの質問はやはりコロンビア号の事故のことに集中した。「事故について声明を出すか」「精神的に乗り越えようと言う話し合いはあるか」などなど。本会議ではコロンビア号の事故について話し合うセッションはあるが、技術的な話題が中心らしい。各国の宇宙飛行士がそろって口にしたのは「宇宙飛行士は危険を覚悟している」。事故が起こることは常に想定し乗り越えるのが当たり前。一般の人たちとは「危険を乗り越えることの重要性」を話し合うが、飛行士同士で改めて認識しあうことはないというムードだ。

 ちょっと待って。コロンビア号事故のちょっと前は宇宙旅行も始まって「私も宇宙へ」ムードだったのに、急にそういわれても混乱してしまう。宇宙飛行士のみなさんは危険を覚悟していると言われても、私たちは遺書を書いてまで宇宙に行く気はない。宇宙飛行士がそれほど危険を覚悟していたなんて、今まで意識したことはなかったよね。

 でもその夜「99歳のスキーヤー三浦敬三さんアルプス氷河を滑走!」というニュースを見てふと思った。私が何度も話を聞いてきた宇宙飛行士たちに「決死の覚悟」という悲壮感はなかった。三浦一家が次々とスキーに挑むように、彼らは自分の中の大きなものに突き動かされるように嬉々として宇宙をめざしていた。登山家がそこに山があるから登るように、宇宙があるから行かずにいられないのかも。無条件に人を惹きつけるものが宇宙には、ある。でも宇宙が登山と違うのは、莫大な税金を使う国家プロジェクトだってこと。山で遭難しても「なぜ山に行く」と問われはしないが、宇宙で失敗すると「意義」が問われる。そう考えると宇宙飛行士が背負うものは大きい。

 実は宇宙飛行士と同じくらい、時にそれ以上に大変な思いをするのは家族じゃないか、と最近思う。本人は行きたくて行くし覚悟も決めてるけど、周りで見てるほうはなかなかそうはいかない。宇宙飛行士会議ではたくさんのスパウズ(同伴者たち)も来日するはずだから、彼らの話をぜひ聞いてみたい。



第18回世界宇宙飛行士会議
http://www.ase-j.com/