コラム
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2003年 3月分 vol. 3
宇宙人と出会うための「方程式」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

太陽系に最もよく似た惑星系。地球から41光年離れた、かに座の主星55カンクライを回る3つの惑星が2002年6月に発見された。太陽―木星と同じくらいの距離に木星よりやや小さい惑星がある。(提供:NASA/Lynette)私たちと今、交信できる地球外文明の数を方程式で表してしまった人がいます。フランク・ドレイク博士。1960年に人類で始めて宇宙人からのメッセージを聞こうと、電波望遠鏡をくじら座のタウ星とエリダヌス座のイプシロン星に向けた人物です。彼は8歳のときから他の星にすむ宇宙人のことを知りたがっていました。

さて、その方程式とは?銀河系にある知的文明の数をNとすると
N=R*×fp×ne×fl×fi×fc×L
で表されます。それぞれの項目はこんな意味をもっています。

R*……銀河系の中で毎年生まれる恒星の数
fp……その恒星が惑星系を持つ確率
ne……その惑星系の中で生命の発生に適した環境をもつ惑星の数
fl……その惑星で実際に生命が発生する確率
fi……さらに知的生物まで進化する確率
fc……そして知的生物が星間通信が行えるような技術文明に至る確率
L……その文明の寿命
この方程式は、後の項目になるほど答えを出すのが難しいのが特徴です。

2月と3月のムービーに登場していただいた、国立天文台の田村元秀さんと、河崎行繁さんに各項目の解釈を伺いました。

まず田村さんに最初の3つの数字から。

R*……10観測からだいたいわかっている数字。
fp……0.05やはりこれまでの観測から出てくる数字。1000個のうち50個ぐらい。
ne……0.1惑星が原始円盤系のどこで生まれるか、その軌道が安定しているか、で決まる。最新の理論と観測から引き出される数字はこのくらい。

次の項目からは河崎案。
fl……1ここは科学者が大論争するところ。河崎さんは、地球上の生命を調べると、私たちが知っている物理や化学の法則を元にして考えると「異常なほど」高い確率で生命が生まれていると言います。だから生命は私たちがまだ解明していない「ある法則」で生まれているに違いない。環境さえ整えば生命は生まれるはず。ということで敢えて「1」。
fi……0.05時間の問題と環境の問題。地球上では遠回りして30億年以上かかっているが、10億年で知的生命にたどりつける可能性だってありうる。でも10億年間、安定した環境が続かない星も多いと思われるので、この値に。
fc……1いったん知的生命が生まれたら、短期間で星間通信技術を獲得するだろう。
L……?文明がいつまで続くか。この方程式の最大の意味は実はここにある。文明が長く続けば続くほど、他の生命と交信できる可能性はふえる。では文明の長さを決める鍵となるのは? 河崎さん曰く、人間にとって敵も味方も、人間。環境問題、領土問題、戦争という仲間同士の奪い合いをクリアできるかどうか・・・ということでこの数値は宿題に。

Lの前までの数値を掛け合わせてみると、
10×0.05×0.1×1×0.05×1=0.0025
これに文明の寿命をかければ、私たちが交信可能な文明の数が出ます。ちなみに、「unfinished」(code 2001年5月)という本で坂本龍一さんがドレイク博士にインタビューしていますが、ドレイク博士は地球にとんでもないことが起きない限り地球文明は十数億年続くだろう、と言っています。「私は楽観主義者ですよ」と断った上で。

もし十数億年地球文明が続くとしたら、出会える確率のある文明は私たちの銀河系だけで数千万個。これだけの文明があれば、どこか一つぐらいとは交信できそう。やっぱり戦争はいい加減に卒業しましょうよ。