コラム
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2003年 3月分 vol. 4
「入試問題」と宇宙
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙から見たアマゾン川。人間の体を流れる血管のように見える。(提供:NASA) びっくり。毛利衛さんと私の共著「エク!赤道におりた宇宙飛行士」(講談社)が群馬県の公立高校の入試問題に使われたのだ! 群馬県で高校入試が行われた直後に、連絡をもらった。そして数日後、群馬県教育委員会委員長殿から入試問題が本当に送られてきた。

 「入学者選抜学力検査」の表紙をあけると、いきなり私の文章。それも「宇宙から地球全体を見わたしたとき、アマゾン川のような大きな川は・・・」と始まる。(この本は2度目の宇宙飛行後に南米エクアドルを訪れた毛利さんの旅行記なのだ)。あぁ受験生のみなさんゴメンナサイ。なぜか謝りたくなる。ただでさえ緊張しているだろうに、宇宙やアマゾンに視点があちこち飛ぶ文章に彼らは混乱したに違いない。

 問題は8問ほどあって、「筆者が具体的にとりあげているのは・・・」など書かれているのも恐れ多く、最後の問い「本文の要旨を○字以上○字以内でまとめなさい」を見て、久々に「あの感覚」が蘇り、緊張してしまった。

 私は国語のテストが大嫌いだった。「要旨を書け」とか「筆者の意図するところは」という問いがあると、ものすごくエライ作家が難しい顔をして壮大に築き上げた立派な考えがあるような気がして、「分かるわけない」と絶望感に襲われ、体がコチコチに固まった。

 私はこの問いで、受験生がそんな気持ちにならなければいいなと願った。それに「要旨をまとめなさい」という設問はいかにも「選抜」っていうニオイがしていやだ。正解が決まっていて、文章を楽しみ自由に発想するという開放感がない。入試問題にそれを求めるのは無理? 書き手としては少しでも読者が感じてくれるところがあればそれでいいのに、とちょっと複雑な気持ち。

 一方、中学入試でも「宇宙」を取り上げた学校があった。難関校の一つ、麻布中学校の国語の問題。作品はSF作家ブラッドベリ「宇宙船乗組員」。宇宙船の事故で乗組員だった父を亡くし、家族が家に閉じこもるようになった部分が出題されている。偶然にも試験日は2003年2月1日。コロンビア号事故の直後に行われた試験だ。最後に「宇宙船乗組員になりたかった主人公『ぼく』はこれからどんな生き方をしていくと考えられるか、君の考えを書きなさい」というような問いがあった。

 この問題は、要旨を書く以上に難しいのかもしれない。だけど「エライ作家」の意図は関係なく自分に向き合えばいいわけだから、ずっとイイ。ユニークな答えはあったのか、その答えは評価されたのか、興味あるなぁ。ともあれ受験生のみなさん、お疲れ様でした。