コラム
前のコラム 宇宙メダカがやってきた
次のコラム 英アーティスト 火星…
2003年 6月分 vol. 4
救命医療の現場が変わる。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


気球は準天頂衛星、走る車は救急車の代わり。画像を衛星に送る実験に成功。(提供:航空宇宙技術研究所)  GPSを利用したカーナビの時代は当たり前になって、今や「マンナビ」の世界。「あなた」を目的地まで送り届けましょう、というサービスが普及している。(最近、行方不明になったペットを見つける「ペット用ココセコム」サービスまで登場した! )準天頂衛星では、1m以下まで測位できるらしい。そんな細かくわかる必要あるの? って私は正直思った。でもより細かく位置を知り情報を送ることができると「救命医療」に役立つ、つまり救われる命がふえるというのだ。

 たとえば、道路で交通事故が起こって救急車が駆けつける場合。従来の精度10mクラスのGPSだと、上り車線か下り車線かの区別がつかなかった。下り車線で事故が起きているのに登り車線から救急車が行くと、迂回するのに例えば5分ロスをする。そのために救命率が5%下がってしまうこともある。でも1mの精度で位置がわかれば、どの車線で事故が起こっているかがわかり、最短距離で現場に直行できる。

 そして救急車に乗り込んでから受ける処置も違ってくる。救急車が患者さんを病院に運ぶまでの時間は約15分。救命士は携帯電話や無線で病院の医師と連絡をとりながら、救命処置を行う。このとき、患者さんの様子を伝える画像をリアルタイムで送ることができれば、医師は的確に状況を判断できる。そのためには、乱れのない高品質な画像を途切れることがなく送らなければならない。ビルの谷間を走るときも、山間部を走るときも。

 こんなふうに救急車から画像を送るシステムを、航空宇宙技術研究所や東海大学医学部など6つの機関が共同で研究を進めている。2003年3月には、500m上空に中継局を搭載した気球を浮かべて準天頂衛星の代わりとして、時速30~50kmで走る車両から動画を送る実験も行っている。

 実はムスコの付き添いで2回、救急車に乗ったことがあるのですよ。「魚の骨がささって息ができない」「温泉で湯あたりして頭痛」とお恥ずかしい内容。でも救急隊員の方の優しくて献身的な姿に感動したなぁ~。彼らの高い使命感と人工衛星の高機能がドッキングすれば、たくさんの命が助かるに違いないと思う。