コラム
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2004年 2月分 vol. 3
「舞台裏」が見える中国有人飛行の本。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


飛天夢圓-宇宙への旅と夢 朱増泉 主編 オーム者 責任編集(左端) オーム社 本体価格1800円  2月のある日、都内の大型書店の宇宙コーナーに出かけると、目に飛び込んできたのは、中国初の宇宙飛行を成し遂げた楊飛行士の笑顔。そしてでっかく「神舟」の文字。2003年10月に行われた中国の有人飛行の本が、今ゾクゾクと出版されている。ビジュアル主体の「中国神舟―初の有人宇宙船」(オーム社 本体価格1,500円)と悩んだ結果、私は「飛天夢圓―宇宙への旅と夢」(オーム社 本体価格1,800円)を購入。宇宙飛行士の選抜の過程や、楊飛行士の人となりが紹介されていたから。

 この本は、中国有人飛行プロジェクトに関わった専門家たちが執筆。総指揮者の李継耐氏が序文を書き、主編者は有人宇宙飛行ニュース宣伝指導組の組長(!)の朱増泉氏。(朱氏は魯迅文学賞を受賞したこともあり、前書きは結構文学的)。1970年代初期、中国は10数名の宇宙飛行士を選んでいたなどオドロキの過去から、宇宙飛行士、ロケット、発射場、飛行試験、宇宙実験、今後の展望など、けっこう丁寧にわかりやすく語られている。

 さて、楊飛行士は1,500名の候補者の中から「強いものからまた強いものを選び、良い者からまた良い者を選ぶ」という原則に基づいて選ばれた。宇宙飛行士にふさわしい年齢は25歳から35歳、体長は1.60~1.72m、体重は55kg~70kg、空軍戦闘飛行機か強襲飛行機の飛行士で大学卒業以上の学歴をもち、勤続年数が3年以上、600時間以上の飛行時間をもつことなどが条件。さらに専門的な技術だけでなく、政治思想面でも率先していることが求められ、「共産党を愛し自分の仕事を愛し、強い革命的精神と責任感を持ち・・・(中略)わが国の宇宙飛行事業と科学開発事業のために身を捧げる意欲をもたなければならない」。この雰囲気は帰還した楊飛行士から確かに漂っていましたね。ユニークな条件は「発音ははっきりしていて、なまりのないこと」で、これは宇宙と地上との間の交信のためだとか。

 書類検査から4次審査までの選抜で最も厳しいのは第3次審査。平行ブランコや回転イス、心理会談などの検査を約20日間にわたって行う。そんな厳しい審査の結果、選ばれた楊飛行士はどんな人物か・・・はこの本を見ていただくとして、エピソードを少し紹介。北京にある宇宙飛行士マンションの彼の部屋には、飛行船の中のドアやメーターの標識がいっぱい貼り付けてあり、楊飛行士は毎日見て暗記。目をつぶっても操作できるようになった。また、英語が少し苦手だった彼は、単語を覚えるために毎晩家に電話。教師をしている奥さんに問題を出してもらい、最後の試験では100点をとったそうだ。

 複数の宇宙飛行士が乗り込む「神舟6号」の訓練がまもなく始まると言う情報もある。この本には楊飛行士以外の候補者の写真もあり(結構カッコイイ)、読んでおけば、「6号」本番がもっと楽しめるかも。

オーム社
http://www.ohmsha.co.jp/