コラム
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2004年 3月分 vol. 3
ブラックホールにせまる!―その2
ブラックホールが「太る」って?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


星を飲み込み、太っていくブラックホール。上は想像図。左下がチャンドラX線望遠鏡の、右下がヨーロッパ南天天文台の画像。Illustration: NASA/CXC/M.Weiss;X-ray: NASA/CXC/MPE/S.Komossa et al.;Optical: ESO/MPE/S.Komossa  ブラックホールはどうやら「太っていく」らしい。2月に発表された右の写真は、星を食べてまさに「太ろう」とするブラックホールをとらえたと言えるかも。2月27日に行われた講演会「ブラックホールのナゾに挑む」で田中靖郎教授(マックスプランク研究所)は「ブラックホールがどんなプロセスで大きくなっていくかが今、旬な話題」と語っている。

 ブラックホールは大きくわけて3種類ある。一つは重い星の最期に超新星爆発を起こしてできるブラックホール。重さは太陽の10倍前後で小型サイズ。それから銀河の中心にある巨大ブラックホール。重さは太陽の数百万倍から数億倍。巨大ブラックホールがどうやってできるか、また小型と巨大ブラックホールの関係はナゾであり「ミッシングリンク(失われた輪)」と呼ばれていた。

 この状況をブレークスルーしたのは日本の研究者。2000年9月、京都大学の鶴氏らは「中間の質量をもつブラックホールを世界で初めて発見」と発表。大ニュースとなった。実はM82銀河に「風変わりなブラックホール」が存在していることは、日本のX線衛星「あすか」が既に観測していた。その後、1999年に打ち上げられたNASAのX線衛星「チャンドラ」がM82にX線を明るく放つ天体をとらえた。詳しく調べると小型と大型のブラックホールのちょうど中間の質量をもつことがわかった。

 M82で日本の研究者が初めて見つけた中質量のブラックホール。(提供:京都大学 鶴剛氏)  このM82銀河は大量の星が連鎖反応的に生まれ、短時間のうちに超新星爆発が起こる「スターバースト」銀河。このブラックホールのあたりでは約1万個もの超新星爆発が起こったと考えられている。星とブラックホールが合体を続け「太って」いったのではないか。さらに成長を続け巨大ブラックホールになる可能性もある、と考えられている。

 ところで、「ブラックホール」って私達の想像力をかきたてる、いいネーミングだと思いませんか? 名付け親は米国の物理学者ジョン・ホイーラー。1969年のことでした。そして最初にブラックホール有力候補「はくちょう座X―1」を見出したのは日本の小田稔氏。1970年に打ち上げられX線衛星ウフルの観測データを解析していた彼は1971年の論文で「はくちょう座X―1はブラックホールではないか」と書いている。その後、気球を使い、精密な位置を決定。さらに電波望遠鏡で青白く光る超巨星が発見された。この超巨星は「見えない天体」の周りをぐるぐる回っていた。その見えない天体は太陽質量の8倍を越えていること等から、初のブラックホール最有力候補となったのだ。この大発見以来、日本のブラックホール研究は世界のトップクラスを走り続けている。

 そうそう、ブラックホールが太り続けると、いつか宇宙全体がブラックホールになってしまうのでは? と心配になりますよね。でもご安心下さい。宇宙は加速しながら膨張している。ブラックホールが衝突する確率は、宇宙が膨張するに従って少なくなるそうですよ。