コラム
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2004年 5月分 vol.4
130年ぶり。真昼の一番星、太陽を通る。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


金星探査機マゼランが撮影した金星。きらりと輝く一番星は、厚い硫酸の雲に覆われた灼熱の星。(NASA/JPL)  黄昏の空にキラリと輝く一番星、金星。今も夕方の西の空に見えています。金星は地球から見て太陽の方向にあるので、明け方か夕方にしか見ることができない。でも本当は昼間も空に浮かんでいる。太陽の光が明るすぎて見ることができないだけ。その「真昼の金星」が太陽を横切っていく様子を6月8日(火)、日本では130年ぶりに見ることができる。

 この金星の太陽面通過、「プチ日食」のようなもの(ただし見かけの金星はうんと小さくて太陽を「食べる」というよりちょこっと「かじる」ぐらいですが)。金星は地球のすぐ内側を回っていて、約584日ごとに地球―金星―太陽の順に一直線に並ぶ。でも金星の軌道が地球の軌道と3度傾いているために、地球から見て太陽の上か下かを通ることが多く、なかなか「プチ日食」が起こらないわけです。次に見られるのは2012年6月6日。

 見かけの金星の大きさは太陽の30分の1ぐらい。肉眼で見られるかどうかというところ(でも肉眼では絶対に見ないで下さいね)。見どころは午後2時11分に金星が太陽に入り始める時、また太陽に入りきる2時半ごろ。太陽と金星がつながって、金星が黒いしずくのようにゆがんで見える「ブラックドロップ現象」が見えるかも。その後はゆっくり太陽を横切っていき、午後5時14分に太陽の中心に最も近づく。午後8時半頃に太陽から出るのだが、残念ながらその前に太陽は沈んでしまう。

 前回日本で観測されたのは1874年(明治7年)12月9日。文明開化まっただ中の横浜にメキシコから、神戸にフランスから、長崎にアメリカとフランスから観測隊がやってきた(立派な記念碑も残されている)。地球―太陽間や地球―金星間の距離が測定できる貴重な現象だったためだ。それから130年、天文学が驚異的に発達し太陽-地球間の距離は詳細にわかっているどころか、パソコンの前にいながらにして金星が太陽を横切る様子をリアルタイムで見ることができるなんて、当時の天文学者たちは想像できただろうか?

 愛と美の女神「ヴィーナス」という名を持つ金星は、地球より一回り小さい「双子星」と言われているが、硫酸の雲が空に浮かび、90気圧の厚い大気に覆われ、鉛も溶かす470度もの高温、地球とは似ても似つかぬ灼熱の惑星。さらに金星の1日は地球の243日、1年は225日。つまり1日が1年より長いフシギな星。日本は2008年に金星探査機を飛ばして大気の謎を探る予定・・。そんなことに想いを馳せながら、科学館で、またはネット中継で金星の「プチ日食」、覗いてみて下さい。

国立天文台「金星が太陽の全面を通過します」
http://www.nao.ac.jp/pio/v20040608/

アストロアーツ「金星の日面通過」
http://www.astroarts.co.jp/special/20040608transit_venus/index-j.shtml