北海道から民間人の手でロケットが打ち上げられた!・・・でもよく新聞やテレビで見る「迫力ある打ち上げ」とはちょっと違う。小さなロケットが大きな空に向かって思いっきり飛び上がってる。青空の爽快さが眩しくて、頼りなげなロケットがちょっぴりユーモラス。それはこの作品を撮った写真家・野口里佳さんの印象にもあてはまる。
タイトルは「飛ぶ夢を見た」。野口さんが自分で作った50センチほどの火薬入りモデルロケットを打ち上げ、撮影したものだ。実は野口さん、種子島宇宙センターに通い本物のロケットの打ち上げも3回見ている。モチロン写真にも撮っている。しかし、H-IIAロケットが飛翔する姿よりモデルロケットのそれに、彼女は飛ぶ夢を見たようだ。
未知なものへの憧れが人一倍強い野口さんは、まず「ロケットの丘」という言葉に興味を覚え、「写真を撮ってみよう」と通い始めた。ロケットが名古屋から船で送られてくるところを種子島で待ち伏せして撮ったりしながら、実際のロケット打ち上げを写真に収めたら作品になるんだろうと漠然と感じていたそうだ。
実際、H-IIAロケットの打ち上げは感動的だった。でも、そのとき彼女は「打ち上げは遠くで起こっているできごとだ」と感じた。宇宙ってなんとなく日常から離れた遠くの出来事。それを身近に感じるために種子島に通い始めて、実際にロケットを作っているのがフツーのおじさんなんだとわかったりもした。でも、打ち上げは「遠かった」。
「旅行雑誌なんか見ると、すごく綺麗な風景写真が載っていて、遠くのものをより遠くにしてしまっている。私は遠いものをもっと身近にしていきたい」と語る野口さんが次に向かったのは北海道。「摩周宇宙フェスティバル」でモデルロケットを打ち上げると聞いたのだ。そしてできた作品が「飛ぶ夢を見た」。
東京・品川の原美術館で個展が開催中。ダイバーを撮影した「潜る人」、種子島宇宙センターで撮影した「ロケットの丘」、そして与那国島の海底遺跡に自ら潜り撮影した近作「星の色」など約40点は日常の世界の非日常、非日常の世界の日常をとらえていて、種子島宇宙センターもロケットはほとんど出てこない。「いかにも」でない視点にはっとする。
野口さんに「火星とか土星に興味ありますか?」と聞いたら「興味はあるけどそれより、月に行きたい。宇宙ステーションでもいい。行かせてー!」とバンバンとたたいてきた。いいなぁ。このストレートさ。彼女なら宇宙をどんな風に切り取ってくれるんだろう。その作品が見てみたい。
「飛ぶ夢を見た 野口里佳」展 7月25日(日)まで東京・品川の原美術館で開催中。
http://www.haramuseum.or.jp/
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