コラム
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2004年 12月分 vol.4
南極、気球が探す「反物質の世界」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


航空機が飛ぶ3倍以上、高度約39kmに気球を飛ばす。大気圧は1/200気圧となり空気の影響を避けて宇宙線の様子を観測する。(提供:KEK)  北半球で一番昼が短いこの時期、Xmasのイルミネーションの下を歩くのは心浮き立つもの。ところが今、南極は夜のない白夜。真っ青な空と白い雪原が眩しいばかりだなんて想像できますか? その南極の青空に向けて12月13日、直径約150m、体積約100万m3もある巨大な気球が放たれた。気球は高度約39kmの成層圏を約10日間、極上空を中心に回る風に乗って観測する。探しているのは反陽子や反物質。宇宙や私達を形作る物質とは「反対の」粒子たち。

 反対の粒子って? と不思議に思われる方も多いでしょう。たとえば電子はマイナスの電気を持つけれど、反電子である陽電子は他の性質は全く同じでもプラスの電気を持っている。現在の宇宙理論では、宇宙創生直後に「粒子」と「反粒子」とが同数あったものの、大部分はぶつかり合ってエネルギーになって消えてしまった、だが粒子と反粒子の性質にわずかな違いがあったために粒子が残ったと考えられているのだ。宇宙に星や銀河や私達のような「物質」が満ち溢れているのは、そのおかげ。

 だが、私達の周りがたまたま物質が多い物質ワールドであって、宇宙のどこかには反物質ワールドがあるのかもしれない。(そんな世界があったら大変だ。たとえば反銀河系と私達の銀河系がぶつかったら、エネルギーになって消えてしまう!)そんな疑問から、宇宙から降り注ぐ宇宙線の中に反物質(反ヘリウム原子核)を探す実験が1993年から気球を使って行われている。高エネルギー加速器研究機構、宇宙科学研究所(現JAXA)、東京大、神戸大、NASA、メリーランド大との共同実験。カナダなどで9回気球を上げてきたが、今回は南極の米マクナード基地近くで実験を行う。

 これまでの観測で700万の観測データに「反物質」は発見されていない。だが「反陽子」は2000例以上観測されている。その多くは、宇宙を走る高エネルギーの粒子が銀河内の物質と衝突して新しく生まれたもの。でももしより低いエネルギーの反陽子が見つかれば、それは宇宙初期に作られたミニブラックホールから放出されたものかもしれないと考えられている。

 南極は、宇宙から様々な粒子が飛び込んでくる「宇宙への窓」。粒子がたくさん飛び込んでくるとオーロラのカーテンを揺らす。反物質ももしかしたら南極上空にやってきているかもしれない。気球実験で反物質を一つでも見つければ、私達の存在をゆるがす大発見になるでしょうね。


BESS宇宙粒子線観測気球実験
http://bess.kek.jp/index-j.htm