2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は今、大きな山場の一つを迎えている。「はやぶさ」は小惑星イトカワに今年8月末~9月に到着。約3ヶ月間イトカワを上空から調べた後、イトカワ表面に降りてかけらをとり、12月には地球への帰途につく予定。現在「はやぶさ」は、太陽から最遠の距離を飛行中。5月には地球からの距離が最も遠くなり、地上との通信方法も複雑になる。この正念場を乗り越えて初めて、イトカワにたどりつくことができるのだ。
これまで地球以外の天体に降り立って物質を持ち帰ったのは、米国のアポロ計画と旧ソ連のルナ計画の「月の石」だけ。小惑星に降り立ってサンプルを持ち帰るのは、「はやぶさ」が世界初だ。小惑星イトカワは、地球と火星の間の軌道を回る600m×300mほどの小さな小さな星で、探査機が訪れた天体としては過去最小を誇る。小惑星は太陽系初期にできた頃のままの状態で冷えて固まっていった「原始太陽系の化石」のような天体で、小惑星を調べれば、どんな材料から地球がつくられたかを紐解くことができると期待されている。
「はやぶさ」は世界初の技術を満載した探査機。その一つに高性能のイオンエンジンがある。従来の化学推進エンジンより燃費がよく、約十分の一の燃料で同じ速さまで加速できる。だが加速度が小さいために常にエンジンをふいて目標の速度まであげていかないといけない。「まるで『石炭をくべる蒸気機関車』。日々の運転が的確でなければならない」と「はやぶさ」運用チーム・スーパーバイザーの1人、矢野創さんは言う。神奈川県相模原市にあるJAXA宇宙科学研究本部の衛星管制室では、「はやぶさ」が送ってくるデータをモニターして、目標の距離や位置にいるかをチェック、次の一週間に達成するべき距離・速度を送信する。つまり、はやぶさは一週間ごとに「ノルマ」を達成しなければならないのだ。
2005年2月から3月、はやぶさはミッション期間中、太陽からもっとも遠い距離にいる。太陽から離れると主に2つのことが起こる。一つは太陽電池で電力を賄っているために、発生電力が低下すること。もう一つが温度の低下。飛行中の探査機で最も電力を消費するのがイオンエンジンと各装置用のヒーター。つまり発生電力は下がるのに、ヒーターが必要な機器は増えてしまうのだ。しかもエンジンには達成するべき「ノルマ」がある。そこで個々の装置の温度設定を変え、4基あるイオンエンジン(1基は予備)を1基だけ使うことにして、しのいでいる。また、これから地球と「はやぶさ」の距離が徐々に遠くなる。それでもイオンエンジンを噴き続けることを優先するために、送受信のパワーが低いアンテナを使って、細い通信容量をやりくりしながら運用しなければならない。それが5月ころまで続く。
イオンエンジンを数年もの長期間にわたって運用するのは世界で初めて。矢野さんたちスーパーバイザーは運用室に「はやぶさ」の小型のペーパークラフトを使って、太陽・地球・小惑星・はやぶさの4つの位置関係や距離、探査機の各部品の向きを視覚化しながら、今何をすべきかを日々考える。矢野さん曰く、「はやぶさはこれまでの惑星探査機とはまったく『別の生き物』です」。
「はやぶさ」ミッション全体の山場はイトカワ探査だが、イオンエンジンの運用は今が最大の山場とも言える。衛星管制室では、地球から約3億キロ彼方を飛ぶ「はやぶさ」と往復30分以上かかる会話を日々交わしながら、イトカワを目ざす日々が続いている。
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小惑星探査機「はやぶさ」
http://www.hayabusa.isas.jaxa.jp/j/index.html
小惑星探査機はやぶさ 勝手に応援ページ
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