コラム
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2005年 2月分 vol.4
1年3ヶ月ぶり H2Aロケット打ち上げへ。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


2月5日、種子島宇宙センターで極低温点検実施のため射座に移動されるH-IIAロケット7号機。今回の衛星打ち上げは(株)ロケットシステムが請け負っている。(提供:(株)ロケットシステム)  日本の「Return to Flight(打ち上げ再開)」が刻一刻と迫る。直径4m、全長53m、17階建ての細~いビルに相当する「H-IIAロケット7号機」が、JAXA種子島宇宙センターで打ち上げの時を待っている。2003年11月29日の6号機打ち上げ失敗から約1年3ヶ月。打ち上げる衛星は「運輸多目的衛星新1号(MTSAT-1R)」。気象衛星ひまわりの後継機として、また航空機の安全な運航のために重要な役割を担う。「成功以外あり得ない」。「打ち上げを成功させて初めて日本の宇宙開発の未来が語れる。」現場にはそんなムードが漂う。

 6号機の打ち上げでは、ロケット1段目の脇に2基ついている固体ロケットブースター(SRB-A)の一本が、燃焼終了後に分離するはずが分離できず、その重さでロケットは予定していた飛行経路を大きく外れ、打ち上げは失敗に終わった。SRB-Aの燃焼ガスが出る「ノズル」の根元に穴が開き、燃焼ガスが吹き出したためにSRB-Aを分離する導火線が燃えてしまった、と考えられている。そこでSRB-Aは設計を変更。またロケット全体についても設計、製造、運用の全ての面について再点検を行った。その結果打ち上げ再開に向けて対処する課題を95件洗い出し、そのうちの77件を7号機で対処、18件についは8号機以降で対処することになった。

 今回のロケットで打ち上げる衛星MTSAT-1Rには大きな2つのミッションがある。一つは気象ミッション。宇宙から地球雲の画像を送ってきてくれた「気象衛星ひまわり5号」は衛星の寿命を終え、2003年5月からはアメリカの気象衛星「ゴーズ9号」にバトンタッチしている。しかしゴーズ9号も予定された寿命を終えている。MTSAT-1Rは「ひまわり5号」に比べて赤外センサーを1チャンネル追加。より高品質の画像を得ることができるし、北半球についてはこれまで1時間に1回の観測だったのが、30分毎の観測に倍増。台風や豪雨などの気象災害が近年相次いでいるが、台風などの雲の移動を精度よく頻繁に観測できるようになるだろう。

2003年5月のH-IIAロケット5号機打ち上げ。バリバリと音をたて、青空を突き破って行くロケット、一度は生で見ることをオススメします。(提供:JAXA)  そして、MTSAT-1Rのもう一つの大きな役割は航空ミッション。たとえば、日米間を結ぶ「北太平洋ルート」は交通量が益々増えてきている。空は広く、どこを飛んでもいいような印象を受けるが、実はあらかじめ飛ぶべき「空のハイウェイ」が決まっている。このハイウェイで衝突したりしないように、現在は一定の間隔をおいて飛行させているのだが、その間隔を短く、かつ安全に交通量を増加させるためにMTSAT-1Rが貢献できるという。

 現在は、航空機のパイロットと地上の管制官との間の通信は、国内ではVHF、海上では電離層を利用した短波(HF)を使っているが、VHFでは山などの地形によって電波が届かないことがあるし、HFでは電離層の状態によって通信が不安定になることがある。MTSAT-1Rを使えば、高品質の音声・データ通信が可能になり、さらにGPS衛星を加えることで海上にいるときの航空機の正確な位置も把握できる。その結果、「空のハイウェイ」を飛行する航空機の間隔を詰め、より多くの航空機が飛行できるようになると期待されている。気象の安定した最短コースをより多くの飛行機が飛ぶことができれば、乗客の私達も快適な空の旅ができるようになるだろう。

 H-IIAロケットの部品の数は約28万点。その一つ一つに神経を張り巡らすのは気の遠くなる作業だ。ロケットエンジニアたちは皆、真面目で一生懸命で気の毒になるぐらい責任を感じている。その1人がくれた年賀メールに「今年こそ最後の峠にたどり着き、いきなり目の前に眺望が開ける、そんな年にしたい。」と書いてあった。成功を祈りたい。


運輸多目的衛星新1号(MTSAT-1R):国土交通省航空局・気象庁の衛星で製造は米国スぺース・システムズ/ロラル社

MTSAT-1R H-IIA・F7 カウントダウンページ
http://mtsat1r.rocketsystem.co.jp/