コラム
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2005年 4月分 vol.2
トイレで繰り出す「星の輪廻」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ATP。使用上のご注意「他の利用者のめいわくとなりますので、長時間の使用はお控え下さい」。排泄と言うもっとも根源的な生命の営みと共に「星の根源」も考えてみませんか?  あなたの家のトイレには世界地図がはってあったり、本や雑誌が並べてあったりしませんか? 小部屋に座る短い時間、意外に集中して読書ができたり、アイデアがひらめいたり。そんな貴重な時間と空間にお勧めのトイレットペーパーが。「Astronomical Toilet Paper」、略してATP。なんとトレペに「星の一生」が印刷されている! 作ったのは天文学を学ぶ学生たち。科学館やウェブでの販売が始まり、ブームになりつつある。

 まずは写真をご覧下さい。ATPは青とオレンジの二色。紙質も柔らかくゴワゴワ感はありません。そして肝心の絵柄は? 太陽ぐらいの大きさの星=標準的な星の一生(約100億年)を6コマで解説。「分子雲」、「原子星」、「主系列星+惑星系」など各コマに解説+宇宙豆知識がぎっしり。かなり専門的。それもそのはず、この原稿は、国立天文台で星の形成を専門とする平松正顕さん(執筆当時、修士2年)が書いたものなのだ。平松さん曰く「トイレットペーパーの印刷は70cmの図版の繰り返しに限られました。その繰り返しを活かせるもの、ということで星の輪廻をとりあげたんです。」なるほど、星が一生を終えて広がったガスからまた星が生まれる。次々と繰り出れるトイレットペーパーは、星の輪廻の壮大なドラマを表現するのにぴったりだったわけだ。さらに、使い切った後の芯を望遠鏡のようにして夜空の星に向ければ、その視野はぴったりオリオン座が入るサイズ!

南米チリで観測中の電波望遠鏡ASTEとATP。
なぜか絵になります。  でも、なぜトイレットペーパーに? きっかけは2003年12月。平松さんと同級生の高梨直紘さんが参加した、プラネタリウム関係者との飲み会の席のこと。「一般の人が宇宙に身近に触れるいい媒体はないかな」という話題に、「毎日必ず行く場所と言えばトイレだよね」と冗談で言い合ったのが始まり。翌年秋に、日産科学振興財団からの助成を受けることが決まり、「これ幸い」と一気に作ってしまった。

 2004年12月に100個の試作品が完成。「おそるおそる」科学館やプラネタリウムに配ってみると、意外な反応のよさ。あっという間にはけた。「これはいけそう」と量産をスタート。アストロアーツ社のオンラインショッピングや科学館での販売を始めた。価格は1個250円とやや高めだが、科学館のお土産として好評だ。「大量生産して半分ぐらいの値段にしたい」という高梨さんは、ATP第二段も企画中。次のテーマは「星座」。ただ星座の神話やイラストだけでなく、例えば「おうし座」ならおうし座の「かに星雲」(超新星の残骸)など天文学の成果を盛り込みたいと考えている。

天プラの皆さん。左から内藤さん、高梨さん、
平松さん、亀谷さん。内藤さんは新宿や池袋などでゲリラ的に望遠鏡を組み立て道行く人に月や土星を見せる「天の川急便」活動中。  実はこのATPプロジェクト、高梨さんと平松さんが天文学を楽しく普及したいと2003年に立ち上げた「天プラ」(天文学とプラネタリウム)の活動の一つ。天プラでは学生を中心とした約130人のメーリングリストのメンバーが次々に新しい企画を立案している。実現したものではATPのほかに「宇宙打(そらうち)」がある。無料でダウンロードできるタイピングゲームだ。1分間に次々出てくる天文用語(「太陽系外惑星」とか「小惑星探査機はやぶさ」とか)を入力していき、その速さを競うのだが、結構ハマる。

 「まずは遊んで、それから宇宙に興味をもってほしい」と忙しい研究の合間に、活動をする頼もしい天プラの皆さん。これからも楽しい商品&活動を展開してくれそう。


ATP(内容解説、入手方法など)
http://www.tenpla.net/atp/

天プラ(天文学とプラネタリウム)
http://www.tenpla.net/

宇宙打(そらうち)
http://planetarium.halfmoon.jp/typing/saishin.html