あなたの家のトイレには世界地図がはってあったり、本や雑誌が並べてあったりしませんか? 小部屋に座る短い時間、意外に集中して読書ができたり、アイデアがひらめいたり。そんな貴重な時間と空間にお勧めのトイレットペーパーが。「Astronomical Toilet Paper」、略してATP。なんとトレペに「星の一生」が印刷されている! 作ったのは天文学を学ぶ学生たち。科学館やウェブでの販売が始まり、ブームになりつつある。
まずは写真をご覧下さい。ATPは青とオレンジの二色。紙質も柔らかくゴワゴワ感はありません。そして肝心の絵柄は? 太陽ぐらいの大きさの星=標準的な星の一生(約100億年)を6コマで解説。「分子雲」、「原子星」、「主系列星+惑星系」など各コマに解説+宇宙豆知識がぎっしり。かなり専門的。それもそのはず、この原稿は、国立天文台で星の形成を専門とする平松正顕さん(執筆当時、修士2年)が書いたものなのだ。平松さん曰く「トイレットペーパーの印刷は70cmの図版の繰り返しに限られました。その繰り返しを活かせるもの、ということで星の輪廻をとりあげたんです。」なるほど、星が一生を終えて広がったガスからまた星が生まれる。次々と繰り出れるトイレットペーパーは、星の輪廻の壮大なドラマを表現するのにぴったりだったわけだ。さらに、使い切った後の芯を望遠鏡のようにして夜空の星に向ければ、その視野はぴったりオリオン座が入るサイズ!
でも、なぜトイレットペーパーに? きっかけは2003年12月。平松さんと同級生の高梨直紘さんが参加した、プラネタリウム関係者との飲み会の席のこと。「一般の人が宇宙に身近に触れるいい媒体はないかな」という話題に、「毎日必ず行く場所と言えばトイレだよね」と冗談で言い合ったのが始まり。翌年秋に、日産科学振興財団からの助成を受けることが決まり、「これ幸い」と一気に作ってしまった。
2004年12月に100個の試作品が完成。「おそるおそる」科学館やプラネタリウムに配ってみると、意外な反応のよさ。あっという間にはけた。「これはいけそう」と量産をスタート。アストロアーツ社のオンラインショッピングや科学館での販売を始めた。価格は1個250円とやや高めだが、科学館のお土産として好評だ。「大量生産して半分ぐらいの値段にしたい」という高梨さんは、ATP第二段も企画中。次のテーマは「星座」。ただ星座の神話やイラストだけでなく、例えば「おうし座」ならおうし座の「かに星雲」(超新星の残骸)など天文学の成果を盛り込みたいと考えている。
実はこのATPプロジェクト、高梨さんと平松さんが天文学を楽しく普及したいと2003年に立ち上げた「天プラ」(天文学とプラネタリウム)の活動の一つ。天プラでは学生を中心とした約130人のメーリングリストのメンバーが次々に新しい企画を立案している。実現したものではATPのほかに「宇宙打(そらうち)」がある。無料でダウンロードできるタイピングゲームだ。1分間に次々出てくる天文用語(「太陽系外惑星」とか「小惑星探査機はやぶさ」とか)を入力していき、その速さを競うのだが、結構ハマる。
「まずは遊んで、それから宇宙に興味をもってほしい」と忙しい研究の合間に、活動をする頼もしい天プラの皆さん。これからも楽しい商品&活動を展開してくれそう。
ATP(内容解説、入手方法など)
http://www.tenpla.net/atp/
天プラ(天文学とプラネタリウム)
http://www.tenpla.net/
宇宙打(そらうち)
http://planetarium.halfmoon.jp/typing/saishin.html
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