4月15日に国際宇宙ステーション(ISS)に向けてソユーズロケットで打ち上げられた3人の宇宙飛行士。その中にイタリア人飛行士がいる。ロベルト・ヴィットーリ。約1週間の宇宙飛行で20種類近くもの実験を行うが、実験装置の中に「Tシャツ」が1枚。宇宙でくらす飛行士たちがもっと快適に、能率よく過ごすために、着心地や保温性、衛生面、色、カッコよさなど生理学的にも心理学的にも改良を重ねた「宇宙のふだん着」だ。
実は彼、2年前にもISSを訪れ、やはり「ふだん着」の実験を行っている。それが下の写真。このときは「仕事用」「エクササイズ用」(ISSでは筋力が衰えないよう、1日数時間運動をする)「睡眠用」の3種類のふだん着を持っていった。写真は「仕事用」。ふだん、NASAやロシアの宇宙飛行士がISSで着ている服より、なんとなく体にフィットして動きやすそうだし、デザイン的にもなかなかカッコイイと思いませんか? さすがイタリア人。お洒落です。
宇宙飛行士は、下着も洋服も靴下も支給される。だが、ISSでは数ヶ月も滞在するのに洗濯機がない。補給船のプログレスが衣料品を運んでくるが、なるべくかさばらない素材で、かつ衛生的で、無重力の宇宙空間でも着心地よく機能的で、温熱的にもすぐれ、もちろん火花をちらすような素材でなく安全で・・・と衣服に要求されることは意外に多い。なのに、これまであまり改善されてこなかった。NASAは綿100%の素材にこだわり、指定されたメーカーのカタログから好みの色やデザインを選ばせている。
日本でも、日本女子大の多屋淑子教授がJAXAと共同で宇宙衣服の研究を進めてきた。2004年12月に同大で行われた講演会によると、衣服内の温度、湿度調整、保湿性や吸湿性などの観点から、綿100%にこだわる必要はなく、素材や糸、縫製の仕方などで、もっと着心地のいい衣服ができると提案。キチン・キトサンなどの素材を使った下着用の素材数種類を実際に試作し、宇宙飛行士の着用評価を行ったそうだ。
さて、ヴィットーリ飛行士が今回着るTシャツは、無重力状態特有の姿勢(ニュートラルボディと言われる、少し前かがみの姿勢)や動きにあわせてデザイン、カッティングが施されている。「新しい構造の素材」が使われている、とヨーロッパ宇宙機関の資料に書かれているものの、素材名は明らかにされていない。
「着るもの」でその日の気分が左右したりして、快適さの大きなファクターになり得る。ヨーロッパのデザインセンスと日本の繊維や縫製の技術が融合すれば、ご機嫌なふだん着が期待できそう。
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