コラム
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2005年 6月分 vol.3
火星レストランでミルフィーユを
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 ポテトとトマトとオニオンは薄くスライスして、それぞれ調理。素材の色を生かして、口の中にいれたときにはサクサク感があり、とろけるように。フランスの料理人アラン・デュカスらが火星ミッション用に考案した「ポテトとトマトのミルフィーユ」のレシピだ。メインの素材は火星産。ほかに「火星パンとグリーントマトジャム」「スピルリナニョッキ」などメニューは11種類。3つ星レストランの高級料理が火星で楽しめるかもしれない。
ポテトとトマトのミルフィーユ。火星パンとグリーントマトのジャム。スピルリナのニョッキ。トマトの赤いソースと。
 ヨーロッパ宇宙機関は、国際宇宙ステーションの次の計画として、月・火星探査を目標とする独自の「オーロラ計画」を掲げている。最終的には2030年ごろに火星に人を送りたいという考えだ。長期間、地球を離れた生活で大事な要素を占めるのが「食」。そこに登場したのが二つの三ツ星レストランをもつ、料理人アラン・デュカス。2004年末に銀座のシャネルビルに「ベージュ東京」をオープンした世界のトップシェフだ。彼の会社「アラン デュカス フォルマシオン」 (ADF)と調理器具を開発するGEMが宇宙料理のレシピを開発した。

 メニューは火星の温室で育てる9つの素材がベースになっている。米、玉ねぎ、トマト、豆、ポテト、レタス、ほうれん草、小麦、スピルリナだ。これらで火星で使う食材の40%を賄う。残りの60種類は地球から持ち込む野菜やハーブやバター、オイル、塩、胡椒、砂糖など。「40%の食材を提供できる植物があれば、人間が生きていくために必要な酸素や水も得られる。また単に健康上、栄養学的な観点だけではなく、良い食事は地球から何年も離れた宇宙飛行士たちの心理学的なサポートになる」とヨーロッパ宇宙機関で長期宇宙飛行の空気や水のリサイクルを担当するChristophe Lasseurは強調した。

フランスの会社、アラン・デュカス・フォルマシオンとGEMが火星で調理できる11のレシピを開発した。  ADFのシェフ、Armand Arnalは「たった9つの限られた基本食材から、香り高く幅広い、まったく別個のレシピを創り出すのはチャレンジングだった。塩を使うのにも厳しい制限があったからね。砂糖と脂肪分は加えることは許されたけど」という。

 アラン・デュカスの料理が食べられるなら、火星でのくらしに大きなお楽しみが一つ増えることになるだろう。でも宇宙飛行士の訓練に、料理のレッスンを加えないと。


写真提供:ADF-Alain Ducasse Formation

火星飛行でもグルメでいたい。(2004年10月コラム)