スペースシャトル発射が打ち上げ直前に延期になってしまった。残念。野口さんたちクルーは、ケネディ宇宙センターの隔離施設クルークォーターズで訓練をしながら待機中と聞く。シャトルは予定通り打ちあがることもあるが、延期も確かに多い。2000年10月に宇宙飛行した若田光一飛行士も3回の延期を経験。しかも3回目は今回の野口さんと同様、シャトルに乗り込んだ後だった。
若田光一さんの著書「ぼくの仕事は宇宙飛行士」(東京書籍、2001年1月)に、打ち上げ延期の時の様子が詳しく書かれている。若田さんはブライアン・ダフィー船長に常々「固体ロケットに火がつくまでは、打ち上げられると思うな。その時までは、今日当然打ち上げるんだということを考えない方が良い」と言われていたそうだ。スペースシャトルは、発射6秒前に3つのメインエンジンが点火、そのパワーを確認してからカウントダウンがゼロになり、固体ロケットが点火される。実際、メインエンジン点火後に中止されたことも過去に数回ある。固体ロケット点火まではいつでも発射が中止になる可能性があるのだ。
だが頭ではわかっていても、実際に打ち上げが延期されるとがっかりするものだ。何ヶ月も準備して緊張感を維持し、このときを迎えているのだから。宇宙飛行士たちは打ち上げの約3時間前からシャトルに乗り込み、機内で最終チェックを行う。若田さんの3回目の延期はシャトルに乗り込んだ後で決定したが、その約1時間前には異常が発見され対処方法を検討しているという連絡が、コックピットに入った。だが「公式な延期が決定されるまでは、打ち上げの準備を進めなければならない」。クルー同士で冗談を言い合っていた和やかな雰囲気は、異常が報告されると一変、「会話もとぎれてしまった」そうだ。
打ち上げを見守る家族も大変だ。打ち上げが無事に行われるか心配が募る一方で、打ち上げを見に来てくれた親戚や友だちの対応に現実的に追われる。宇宙飛行士たちは、訓練の期間を経て「忍耐強さ」が身に着いているし、自分のやるべき任務を理解している。だが、家族達はそうもいかない。若田さんも「きっと僕達よりも、家族のほうが大変だったのではないだろうか」と書いている。
NASAは原因究明を急ぎ、7月中の打ち上げを目ざしているが、技術的な問題のほかに気になるのは天候。ハリケーン・エミリーも接近中だし、たとえ射場付近の天候がOKでも、スペインとフランスにあるシャトルの緊急帰還地3ケ所のうち少なくとも1箇所の気象条件もOKでないと打ち上げられない。
だが、延期を続けても必ず「そのとき」はやってくるだろう。無事に固体ロケットに点火し数分後、「ネガティブリターン」(もう戻れない)という交信が聞こえた時、野口飛行士はシャトルの中で大きくガッツポーズをするに違いない。
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