野口総一飛行士が乗ったスペースシャトル・ディスカバリー号がカリフォルニア州エドワーズ空軍基地に降りて、はや1週間。NASAケネディ宇宙センター(KSC)で夜通し、シャトルの帰還を待っていた身としては、シャトルが帰ってくるときの「ドーン、ドーン」という衝撃波を体感できずかなり残念ではあったけれど、無事に帰ってきて何よりだ。
スペースシャトルというと「打ち上げが見たい」という人が多い。打ち上げ時の轟音と振動は確かに病み付きになるような強烈な体験だが、今回私は「着陸」にこだわった。コロンビア号の事故が帰還時に起きて、着陸を見るまで安心できないこともあったし、今まで着陸を見た人たちに「一度は見るべき」と熱心に勧められたからでもあった。
彼らのお勧めの理由のひとつは、帰還時の衝撃波。「KSCのあるフロリダ州オランドならどこでも聞こえるわ」、とKSCのビジターセンターのおばちゃんは言った。これがシャトルの「ただいま」なのだと。そしてもうひとつは、落っこちてくるようなシャトルの生の迫力。ある宇宙飛行士曰く「機関車のようにガチャガチャ音を立てながら飛ぶ」んだとか。設計が古いので、ただグライダーのように飛んでいるだけでも、中で動いている機械が音をたてて、まるで機関車みたいなのだそうだ。
シャトルの「ただいま」を聞きたくて、テキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターから、フロリダ州オランドのケネディ宇宙センター(KSC)にやってきた。KSCはフロリダ半島の東に突き出たケープ・カナベラル岬にあって、空港からBEELINEというハイウェイを40分ほど飛ばし、いよいよKSCに入る前にはインディアンリバーという大きな川をわたる。これがたまらなく爽快。青く広がる空とゆったり流れる川。そして左前方には巨大なシャトル組み立て工場VAB!「スペースポート」にやってきたぞーという感じ。
シャトルは「Shuttle Landing Facility(シャトル着陸施設、SLF)」という滑走路に降りてくる。8月8日(現地時間)深夜3時にKSCのプレスセンターからSLF行きのバスに乗車。SLFに着くとすでに観覧席には、望遠レンズをつけたカメラがずらりとセットされていた。
シャトルのKSCへの着陸はこの日2回のチャンスがあって、明け方の4時47分と6時22分。着陸予定時間の1時間20分前には、ミッションコントロールセンターのフライトディレクターが、「Go or No Go」の判断をする。Goの判断をするとシャトルは地球周回軌道から出るためのエンジンを噴射し、もう後戻りはできない。KSCのあるオランドは日中はピーカンに晴れわたるが前日は激しい夕立があった。深夜3時すぎにはKSC周辺上空はうすく雲が残っているだけで問題なく見えたのだが、1回目の「Go No go」判断では着陸は見送られた。「えー」と言いながら「次のチャンスに着陸したほうが、空が明るくてシャトルは見えるよね」と強がりNASAテレビをマーク。だが2回目の判断が迫ってきても、レーダーが示す雲の広がりはフロリダ半島上空に居座っている・・・。結局着陸は翌日に持ち越さ、カメラマンは無言で素早く撤収。私も諸般の事情で、泣く泣く帰国の途に。
結局、次の日も天気は好転せず、シャトルはカリフォルニアに着陸。エドワーズ空軍基地から1時間のところに住む航空エンジニアの五月女剛さんは早朝5時、「ドンドンという大砲のような音でアパートの窓がびりびりと震え、なんだなんだと飛び起きた」そうだ。
そういえば、オランドで私の宿泊していたホテル、「ホリデイ イン タイタスビル」はインディアンリバー沿いに建ち、対岸にはシャトル組み立て工場VAB。シャトル打ち上げを見る最適スポットのひとつだ。着陸予定日の前日に「ニューヨークから来たんだけど、このホテルからシャトルの着陸見える? それなら二日間予約するよ」と飛び込んできた家族がいた。「4日間休日とって、車で来たんだ!」と嬉しそーにお父さんが言ってたけど、彼らはどうしたのかな? 私同様、きっとまたトライするんだろうな。
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