コラム
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2005年 9月分 vol.4
宇宙でCM「No Border」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ミニ地球のエコノートと日本科学未来館をつなぎ、会場の約40名の参加者が直接質問できた。  足元の境界=BORDER(カップヌードルで作られている)の一つをとりあげ、食べてしまうCM。お花畑の中、朽ちた戦車の傍らでラーメンを食べる子ども達。そしてアフガニスタン難民の子ども達の優しくて、透明な笑顔。バックにはMr.Chilrdenの楽曲が流れ「傷つけあうためじゃなく、僕らは出会ったって言い切れるかな」と問いかける。そんな日清食品カップヌードルの「No Border」シリーズがついに宇宙で収録される。

 大好きなんです。このCM。もちろんMr.Chilrdrenの大ファンということもあるけれど、余計な語りがなくて静かだけどインパクトのある映像とか、子ども達のまなざしとか自然な笑みとか。それがミスチル桜井君のフレーズとばっちりあってて、いつもジーンと涙ぐんでしまう。このCMから感じるのは、人間は戦争を繰り返し世界のあちこちに憎しみのBORDER(境界線)をひいてしまっている。だけど、そのBorderを子ども達に受け継がせてはならないし、元々Borderなんて心の中にあるもの。食べたらなくなってしまうものなのさ、というメッセージ。

 このCMがついにBorderのない世界で撮影される、それは「宇宙」。この10月初旬に「No Border 宇宙編」のための撮影が国際宇宙ステーションで行われると言う。日清食品の広報部によると「このCMを始めた頃から、いずれは宇宙で撮影したいと考えていました」とのこと。

 CMを手がけるのはクリエイティブディレクター高松聡氏が立ち上げた会社SPACE FILMS。高松氏と言えば、2002年の正月に放映されたポカリスウェットの宇宙CMを手がけた人物。元々宇宙飛行士になりたかったとのことで、宇宙への思い入れが人一倍強い方だからこそ、国際宇宙ステーションで宇宙飛行士にCM撮影させるという前代未聞のプロジェクトを成し遂げたのだろう。

 さてCM撮影だが、10月1日にロシアのソユーズ宇宙船がウィリアム・マッカーサー飛行士、ヴァレリー・トカレフ飛行士、アメリカ人ツーリストのグレッグ・オルセン氏と撮影用のハイビジョンビデオカメラを搭載し打ち上げられる。トカレフ飛行士にはすでにCM撮影の訓練を地上のシミュレーターで行っている。10月6日~8日に撮影。モデルはセルゲイ・クリカレフ飛行士。演技指導はモスクワの管制センターから行う。クリカレフ飛行士と言えば、4回目の宇宙飛行中で通算宇宙滞在記録は747日を越える予定で、もちろん世界一の人物だ。彼がカップヌードルを食べることになるのだろうか!

 宇宙でラーメンと言えば思い浮かぶのが、野口さんがシャトル内で食べた日清食品の「SPACE RAM」。私もNASAで試食させてもらったが、非常に美味。アメリカの食生活に辟易していただけにガツガツ食べてしまった。ややトロリとしたスープと、一口サイズに筒状になった麺。そして具のエビはプリプリと美味しかった。今回の実績を元に将来は日本食宇宙食として、開発を進めていくそうだ。(容器もNASAの小さいものではなく、日本独自のものを検討中とか)。

 考えてみれば、今回のメンバーは「No Border」なクルー達。ツーリストが宇宙を訪れることも、宇宙をより多くの人たちに開くという意味でボーダーを広げてくれるし、クリカレフ飛行士はどれだけ長く人が宇宙でくらせるか、というボーダーを広げている。そもそも彼は軍人がほとんどだったロシア宇宙飛行士の中で、エンジニアとして活躍した草分け的存在だ。

 CM撮影したビデオテープは10月15日に回収され、11月から「No Border宇宙編」がオンエアされるという。楽曲が気になる。ミスチルの音楽も宇宙で実際に流してみてほしいなぁ。


日清食品カップヌードル
http://cupnoodle.jp/

ISS内での映像撮影機材のレンタル事業の研究(JAXA発表文)
http://www.jaxa.jp/press/2005/09/20050921_sac_openlab_j.html