日本の学生たちが作った超小型の人工衛星が、次々に宇宙に飛び出している。さらに「後に続け」とあちこちの大学が日夜製作に励んでおり、打ち上げのチャンスを待っている。
たとえば2月22日に打ち上げられたJAXAのM-Vロケットには、「CUTE(キュート)1.7+APD」が搭載されていた。10cm×10cm×20cm、重さ約3kg。東京工業大学の学生たちの手作り衛星だ。実は東工大の衛星は2機目。1機目はさらに小ぶりな10センチ立方で、2003年6月30日、東京大学の衛星「XI(サイ)-VI」と一緒にロシアのプレセック宇宙基地から打ち上げられた。東大の2号機「XI-V」も2005年10月27日にロシアから打ち上げられ、これら4機の衛星たちは今も元気に地球の周りを飛び続けている。東大の衛星からは時々、地球を撮影した画像が私のパソコンに送られてきて、癒されてます(右の写真)。
東大と東工大に続いて、日本大学の衛星「SEEDS」は既にできあがり、ロシアから5月ごろの打ち上げ予定で待機中だし、北海道工業大学の衛星「HITSAT」も今年9月にM-Vロケットでの打ち上げを希望し、現在試験を行っているところ。これら超小型衛星(通称キューブサット)は、衛星作りから打ちあげ後の運用まで、物づくりの現場を学生たちに経験させる「教育」が大きな目標の一つ。最近では、1年半~2年という開発期間の短さや開発費用の安さで、宇宙関連企業や大学・研究所から注目を集めているという。
大きな可能性を秘めた小型衛星たち。でも小さい衛星を作る現場って結構大変では?
衛星作りに挑む学生たちの奮闘ぶりを記した「キューブサット物語」(発行:エクスナレッジ、定価:1400円+税)の著者であり、大学での衛星やロケット作りをサポートするNPO法人大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC、約30大学が加盟)の事務局長、川島レイさんによると「衛星が小さいから太陽電池も少なくて電力にかなりの制限があります。一方、衛星の中は通信系とか姿勢制御系とかに分かれて、それぞれやりたいことがいっぱい。少ない電力リソースを分ける技術は神業に近い」とか。
川島さんによると、衛星作りで最も大変なのは「試験」。「衛星を設計したり作ったりするのも大変だけど楽しい。でも衛星ができた後に何度も試験を繰り返して欠点を洗い出していく作業は一番大事なところでもあり、苦しいところでもある。再現性が大切で、何度繰り返しても同じ結果が出ないといけないのだが、それが難しい。不具合の理由がわからなかったりすると、だんだん学生さんたちの顔が暗くなるんですよね(笑)。」
だからこそ「打ち上げロケットの安定的な供給」は大きな課題。「打ち上げロケットが決まっているのといないのでは、学生たちのモチベーションがまったく違います。」衛星を実際に宇宙に打ち上げるには、衛星を作るだけでなく、打ち上げのための資金を集めたり、通信のための周波数を取得するために総務省に通ったりなど、様々な苦労がある。これらの苦労も打ち上げの目標が見えていれば、乗り越えられる。でも実際には、自分が作った衛星の打ち上げを見ずに卒業していく学生も多いらしい。技術は確かに育っているのだから、打ち上げ機会が安定的に確保されれば、色々な可能性が出てくるだろう。今回のM-Vロケットのように、日本のロケットもキューブサットをどんどん打ち上げてくれればいいなぁ。
実はUNISECに参加している大学ではロケット作りも活発化している。「大学発のロケットで、日本各地で地域の人たちと一緒になって、衛星を上げていければいいですね。甲子園のようなイメージで」と川島さん。なるほど、ロケットも自前! 面白そう。
小さい衛星だからこそできることが、色々ありそうで今後がとっても楽しみなのである。
写真提供:東京大学中須賀研究室
大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)
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