2006年 3月分 vol.3
日本製ハイテク宇宙服―実現できる技術は既にある! |
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ライター 林
公代 Kimiyo Hayashi
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「日本製ハイテク宇宙服」の2回目は、実際に宇宙服の調査を行っているJAXA有人宇宙技術開発グループ・山方健士さんのお話。「宇宙服なら山方に聞け!」といわれるほど宇宙服に精通している山方さん。宇宙服の将来像を具体的に聞いてみました。
― 今はどんな段階なんですか?
山方:現在、日本にある色々な情報を集めているところです。集めた技術をテーブルの上に広げたときに、アイデア募集で紹介しているもの(写真下)のうち、どんな宇宙服を作ることができるかを検討します。最初からJAXAが「こんな宇宙服を作ります」といってしまうと、町工場にすごくいい技術があっても拾えなくなる。今の技術だけでなく10年後には成熟しているであろう技術を見据えて、現実的に宇宙服に利用できるものと未成熟な部分を整理して、5月頃までに構想をまとめようと思っています。
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― そうは言っても今の宇宙服の問題点とか、こんな宇宙服にという目標はありますよね?
山方:一つ大きいのは宇宙服内の「気圧」の問題です。現在、NASAの宇宙服の中は0.3気圧です。宇宙は0気圧の真空なので、宇宙服の中の気圧は低くないと、宇宙服が風船のように膨らんでしまう。でも宇宙船の中は1気圧。急に0.3気圧に下げると、体内の窒素が泡になり細い血管を詰まらせる「減圧症」という病気になる恐れがある。体内の窒素を追い出す「プレブリーズ」という作業が約12時間前から必要なので、船外活動にさっと出られない。
この「プレブリーズ」が必要ない気圧が、生理学上0.58気圧で、新しい宇宙服で実現したいと思っています。問題は真空の宇宙で膨らんでしまうこと。これを日本の繊維技術、縫製技術などでカバーできるのではないか、と考えているんです。
― 具体的には?
山方:日本の繊維や縫製技術は世界的に優れているので、まずは繊維や三次元縫製などの編み方で、宇宙服を膨らまないようにしつつ、指先や関節をある方向に曲げられるようにできないかと考えています。ほかには人工筋肉や、介護の現場に使うことを目指して研究されているパワーアシストスーツやマッスルスーツなども検討しています。
― 介護用ですか。
山方:はい。これまでに調査したマッスルスーツは5kgぐらいの物があり、アク
チュエーターがついていて、体を動かしにくい方や寝たきりの方が装着し、自分や介護をする方がコマンドドを送ると、動きを支援してあげることもできるようです。まだ研究段階のようですが、たとえば宇宙服用に改修して軽くて省エネで安全性が確保できたものが実現できれば、地上で介護の現場に使う事だってできると思います。
― なるほど! それはいいですね。では気圧のほかにクリアするべきものは?
山方:月面の表土、レゴリス対策ですね。月は風がないから、ミクロン単位のチリや埃がお互いにこすれずにとがったままです。そのチリが宇宙服の繊維のすきまにひっかかってブラシでもとれないから、宇宙服にフッ素樹脂を塗るとか、特殊なコーティングが必要になる。今着目しているのが炭鉱とかで使っている防塵服の技術です。
― 今の宇宙ステーション用の宇宙服と月面用とは違うわけですね?
山方:僕の中では必要な機能はどちらも同じ、一つの宇宙服なんです。アポロ宇宙船の飛行士たちをよく見ると、打ち上げや帰還の時に来ている宇宙服と、月面で来ている宇宙服は同じ。ヘルメットとブーツ、手袋を替えているだけですよ。 宇宙服の基本形を、月面でも使えるようにしておけばISSでも着られる。ブーツとかデブリ防護用のチョッキとかの装備をつけていけばいいんです。
イメージは今、テレビで放映されている「仮面ライダーカブト」のイメージですよ。あれを見たとき「そうそう! こういうイメージ!」と思った(笑)。
― あはは。今度見てみますね!今後のスケジュールは?
山方:全てがうまく行けば、2009年に開発をスタートしたいです。
― 2018年に月面で着るには9年しかありませんよ。大丈夫ですか?
山方:間に合うように頑張りたいです。新規技術の開発をなるべくしないで時間を短縮することを考えています。日本に技術はあるんです。大学や民間企業等にご協力頂いて、JAXAがあちこちに点在している技術を集めて組み合わせて、今は出口のない独創的な面白い技術を、実際に使えるようにしたい。その技術が、介護の現場や、断熱性の高い家作りなど、地上の様々な分野でも活用されていくようにしたいんです。
次世代宇宙服アイデア募集
http://iss.sfo.jaxa.jp/eva/jsuit/index.html |