コラム
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2006年 8月分 vol.1
月に人が住む時代を目指し、月ラッシュスタート
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


1990年に打ち上げた「ひてん」。上に乗っている小型衛星が「はごろも」。「ひてん」は「はごろも」を分離し二つの衛星はそれぞれ月の周りを周回。今から10年以上前に、日本はこんなことをやっていたんですね。(JAXA)  2007年から月ラッシュがスタート。各国の探査機が月を目ざす。日本の大型衛星「セレーネ」をはじめ、中国の嫦娥(じょうが)衛星1~3号、インドのチャンドラヤーン衛星1、2号、アメリカはもちろん観測機を複数打ち上げるし、イタリアも計画中とか。すごい勢いだ。7月31日に行われたJAXAの月探査関連のシンポジウムでは、今後の月惑星探査構想が明らかになった。

 JAXAは今年の4月11日に月・惑星探査推進チームを立ち上げている。「月面拠点有人活動検討サブチーム」「SELENE後継サブチーム」「太陽系探査サブチーム」の3つ。事務局長の川口淳一郎氏の発表はいつもどおり切れがいい。「日本はすでに二つの周回機(はごろも・ひてん)と一つの衝突機(ひてん)を月に打ち上げている。だから月に行くことが関心事ではなく、『第一級の科学観測を行う』ことが目的だ」というもの。世界的に評価される科学的成果をあげている小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーだけに、発言に説得力がある。

 で、日本の計画はと言えば「今後10年かけて月を徹底的に調べつくす」。具体的には2007年にセレーネ衛星を打ち上げる。これは1970年代のアポロ計画、ルナ計画に次ぐ大型衛星。14種類の観測機器を積んでいて月全球の高い分解能での観測や月の裏側の重力分布の観測などを行う。世界の研究者がデータを待ち望んでいるらしい。

7月31日のシンポジウムで川口淳一郎氏が発表した、JAXAの月探査計画。  その後は2013年ごろに「セレーネ2」を打ち上げて着陸機を下ろしたり、ローバーを走らせたり、月の長い夜を越える技術の実験を極地域で行ったり等を検討中。続いて「セレーネ3」では二つのプランを検討している。着陸機をおろし水や酸素などの資源を調べたり、月面のレゴリスから酸素を利用できるか検証したりするプランと、月のサンプルを地球に持ち帰るプラン。これらのデータを元に、2015年ごろにその後の開発を判断。GOなら2020年ごろ日本人が月面に国際ミッションで到達し、2030年ごろには日本人の長期滞在が始まる・・・。毎夜、見上げる月に、いよいよ人が住むようになるんですねぇ。

 ところで、2007年打ち上げの「セレーネ」に広報用ということでハイビジョンカメラが搭載され、月から見る「地球の出(アースライズ)」の動画を撮影するという話題を以前紹介したが、このハイビジョンカメラの搭載をめぐって、実は大激論があったらしい。CCDカメラが放射線に弱く、最初の数ヶ月はいいが、そのうち傷が見えてくるのでは、という理由でプロジェクトマネージャーが大反対したとか。だが今はミッションとの一体感を国民と共有するのが大事な時代。「後継機にも同様の広報機器を搭載したい」とJAXA担当者。期待しましょう。