コラム
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2006年 9月分 vol.1
女性初の宇宙旅行者の『影響力』
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


9月18日午後1時9分(日本時間)にソユーズロケットで打ち上げられるクルー達。左端が女性初の宇宙旅行者となるアニューシャ・アンサリさん。綺麗でお洒落な女性だ。(NASA)  国際宇宙ステーションはお客さん続きだ。スペースシャトルで6人の客人がやってきたと思ったら、次はソユーズロケットで3人。そのたびに宇宙ステーションの主たちは、ロシアの習慣に乗っとって客人に茶色くて固いパンを振舞うのが習慣だとか。9月18日にソユーズで打ち上げられ、20日に宇宙ステーションにドッキングする3人の中には、女性初のスペースツーリスト、アニューシャ・アンサリさんがいる。実はこの方、宇宙旅行業界で知らない人がいないほどの重要人物。

 今から約2年前の2004年秋、高度100kmの民間宇宙飛行を目ざす賞金レース「アンサリXプライズ」で、参加26チームの中で宇宙船「スペースシップワン」が見事、1000万ドルの賞金を手にした。これをきっかけに、宇宙旅行熱が加速、現在2008年のサービス開始を目指して、世界のベンチャー企業が熾烈な宇宙船開発競争を繰り広げている。この「Xプライズ」のスポンサーとなったのが、アンサリ一族なのだ。

 アニューシャ・アンサリさんは1967年9月12日(9月12日は日本の『宇宙の日』!)、イラン生まれの39歳。1984年に米国に移住。そのときは英語が話せなかったという。ジョージメイソン大学で電気工学とコンピュータ科学の学位を、ジョージワシントン大学で修士号を取得した。その後、夫らとテレコムテクノロジー社を設立。会社を急成長させた。また、難病の子供達の夢をかなえる「Make A Wish」の活動にも参加している。

 実は、アンサリさんは昨年10月に福岡で行われた宇宙関連の国際会議に来日している。その時の第一印象は「綺麗!」。彫りが深いエキゾチックな美貌と言おうか。記者会見の後に短いインタビューをした時には「小さい頃から空を飛びたくてたまらなかった。いつか宇宙に行きたいし、たくさんの人が宇宙に行く事業に投資したいと思っている」と話してくれたのだが、まさかそのとき約1年後に彼女が宇宙に行くことになるとは! 国際会議の見学中もぶらっと一人で外のベンチに座って足をぶらぶらさせてたり、セレブなのにフランクで「私が! 私が!」なんて決して目立ちたがったりしない。いい感じの方であった。

 ところで、彼女がソユーズで宇宙旅行をすることに大きく期待を感じるところが二つ。一つは宇宙旅行の快適性アップ。例えば国際宇宙ステーションにドッキングするまで、せまーいソユーズ宇宙船でぎゅうぎゅうになり3人で過ごす。トイレもほとんど仕切りがない状態。アンサリさんが身をもって経験し、改善のために声をあげてほしい。女性初の旅行者の視点を、後に続く女性たちの「快適な宇宙旅行」のために是非生かしてほしいのだ。

 もう一つ期待することは、高度100kmの宇宙旅行船の開発が加速すること。アンサリ氏が現在代表をつとめるプロデアシステムズ社は、2008年に高度100kmの宇宙旅行を実現を目ざす宇宙船「Explorer」を、米国の旅行会社スペースアドベンチャーズと共同で開発している。今回の宇宙旅行で、宇宙の素晴らしさを実感すれば、「より多くの人に宇宙旅行を体験してほしい」という思いが強まるだろうし、宇宙体験が宇宙船開発にも具体的につながってくるはずだ。