前の人が詠んだ詩を味わい、楽しみ、その詩を受けて数行の詩を書く。そして自分の詩を次の人が詠んで、違う発想で新しい詩が生まれ、連詩となって紡がれていく・・・。詩人の大岡信さんが1970年ごろから始めた「連詩」。JAXAが大岡さんの監修の元、宇宙や地球、生命をテーマに、一般からインターネット等で公募を始めた。詩人・文化人による寄稿と組み合わせて編纂した24の「宇宙連詩」はDVDディスクに収録し2007年末頃、宇宙ステーション・日本実験棟「きぼう」に打ち上げ保管される。誰でも参加可能な「宇宙を巡る言葉の旅」が今、始まった。
10月10日、東京・丸の内で開かれた「宇宙連詩」のイベントでは、第1詩から第3詩が紹介された。第1詩は宇宙飛行士の山崎直子さん(右上の詩)。ビデオメッセージで山崎さんは「何を表現しようかと考えたとき、心に響いたのが『命』だった。4年前に娘を妊娠し、超音波検査で最初は点に見えたお腹の子が成長する様子に、魚類から両生類、哺乳類へと、生命の進化を凝縮して見ているようだった。」と語った。同じ体験を持つものとして共感。大岡氏は「さすがに宇宙飛行士と感じさせる詩で、清らかな感じがする。宇宙の歴史の中に人間がいることをはっきり意識している詩ですね」と評価する。
第2詩は谷川俊太郎さん。谷川さんといえば、高校を出たばかりの頃「20億年の孤独」という詩で宇宙と自分の関係を表現している、私の大好きな詩人だ。だが谷川さんのこの詩には以前の孤独感でなく、闇にさえも抱かれた懐の深い暖かさが表現されていると感じる。
そして第3詩が大岡信さん。谷川さんの詩が「静」ならば大岡さんの詩は「動」だ。「広大なものを描くにしても足元の小さなものや具体的なものを出発点にすること。この詩ではカツオやキリン、赤んぼを通して『生きることは動くこと、生きている喜び』を描きたかった」と大岡氏。読むだけで広大な情景が浮かんで、気持ちが晴れ晴れして嬉しくなってくる詩だ。どこかへ駆け出したくなってしまうほどに。
第3詩に続く第4詩から、JAXAのウェブサイトなどで公募が始まる。毎週金曜日にその週の詩が発表され、週明けの月曜日午後3時が締め切り。基本となるルールは5行、3行と交互に続けること。直前の詩の中の言葉や、ある1行を引用して自作の出発点にするか、アイデアを踏襲していくこと。しかし、選者の大岡さんはルールにこだわらない。「必ずしも5行、3行でなくてもいいし、方向は自然にできていくけれど、外れていくのもおもしろい。でも私を納得させるのは大変ですよ」と発言。選者の懐の深さは嬉しい限りだ。
イベントでの自由奔放な発言ぶりにすっかり大岡さんのファンになり、そもそもなぜ彼が連詩を始めたのかを調べて見た。岩波新書「連詩の愉しみ」(1991年)にその経緯が詳しいが、出発点は「自分の詩がどんな人の心の上に落ちていきつつあるのか」がよく見えなくなったことだという。同時に1970年ごろから社会全体に「自分との間にチャンネルがあうことが予感される対象に対してしか、進んで接触しようとしない傾向が確実に強まっている」ことに危機感を抱き、日本の伝統文化である連歌や連句を発展させた連詩を始めようと考えた。なぜなら、連詩は参加者が作者であると同時に、鑑賞者。自分で書きたいことを書くだけでなく、ほかの作者が詩に込めた意味や気持ちを推し量ることが必要となる。その「創造的相互干渉の関係」で互いの理解が深まり、自分だけでは予想もつかなかった新しい世界が開ける。
大岡氏の詩を巡る文章を読んで、「これって今の宇宙開発の状況に似ている」と感じた。宇宙はなぜか科学や技術に興味のある人たちだけの特別な世界になっている。もっともっと広くたくさんの人が宇宙を愉しみ、そこから恩恵を受けられるはずなのに。この「連詩」という共同作業で、今まで「チャンネルが違う」と思い込んでいたたくさんの人たちを巻き込んで、予期せぬ世界が広がって私たち自身も心豊かになることを期待したい。私も参加してみようかな・・・。あなたも一つ考えてみませんか?
JAXA 宇宙連詩のウェブサイト
http://iss.sfo.jaxa.jp/utiliz/renshi/index.html
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