コラム
前のコラム 土井宇宙飛行士インタ…
次のコラム 土井さんと宇宙へ。…
2006年 11月分 vol.1
宇宙旅行服、テーマは「愛」。2008年実現へ。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


最優秀デザイナーに選ばれた梅津緑さんの作品「宇宙散歩」。着ている人が楽しく、見ている人が幸せになるような服作りを目指している。  このコラムで数回紹介している「スペース・クチュール・デザインコンテスト」。2008年頃、米国ロケットプレーン・キスラー社が初飛行を予定している、高度100kmへの宇宙旅行で着る公式宇宙旅行服を開発するデザイナーを一般から公募するコンテストだ。882点(365人)の中から選ばれたトップ11の最終審査が、11月2日、東京大学本郷キャンパスでファッションショー形式で行われた。

 コンテストはJAXAの後援を受けて、スペース・クチュールコンテスト実行委員会らが主催。5月に、デザイン画の段階で見てかなり面白さを感じてはいたものの、紙から実際の洋服に立ち上がって一流のモデルたちが着こなすと、やはりカッコいい。会場は「東大にもこんなに近未来的なスペースがあったの?」という工学部2号館(日比谷のグリル松本楼も入っているビル)。一口に宇宙をテーマにしているとは言え、11点の作品は動きやすさなど機能性を重視したもの、日本的な和をテーマにしたもの、無重力を積極的に楽しもうというもの、などコンセプトの違いが明確に浮き上がってきて、バラエティに富んでいた。

トップ11の作品。右から4人目のウェアは、手先のガンから空気を噴射して宇宙を飛ぶアイデアで3位に。  最優秀デザイナーに選ばれたのは、東京モード学園3年生の梅津緑さん。テーマは「宇宙散歩」。お揃いのウェアを着たぬいぐるみを抱く姿は一際楽しそう。梅津さんは「『宇宙旅行』といわれて浮かんだのは、家族とか友達とか誰かと一緒に行くこと。仲良くリラックスして行ける服があったらいい」と考えた。苦労したのはアウターの形をどうやって作るか。土星の輪をイメージし、見えないもので守られている感じを出したかったとか。

 コンテスト実行委員長で、これから梅津さんらと実際の宇宙旅行服を開発していくことになるファッションデザイナーの松居エリさんは、「梅津さんの作品はほかの人の発想と違う。宇宙空間で守られている、つまり『愛』がテーマです。これを核にコラボレーションし、2007年3月にはパリで発表したい。一点だけでない可能性もあります。」と意欲的。

慶応大学の丹治さんの作品。シンプルなシャツとスカートに回転すると変化が!無重力状態で着ればさらに可愛く楽しめるだろう。  トップ11の中で、惜しくも賞には選ばれなかったものの、私のお気に入りは慶応大の丹治さんの作品(右)。一見フツーの洋服だが、回転するとスカートが可愛くまぁるく膨らむ。テーマは「楕円幾何」で、シャツとスカートは違う幾何学で表現されている。地上の当たり前が宇宙で当たり前でなくなることを感じてほしいとか。見た目が派手でなかったので選ばれなかったのか残念だが、実際に着てみたい一着だ。

 審査委員の一人、宇宙ステーションで世界初の本格的CMを撮影した、スペースフィルムズの高松聡氏のコメント「高度100kmへの宇宙旅行は、数時間で宇宙に行って帰ってくる。ものすごい重力がかかるわけでもないし、無重力で何日間も暮らすわけではない。むしろ『人生の晴れ舞台』。だから機能性を追求するというよりは、いい思い出を演出する服がいい。」には、なるほどなぁと思った。思い出を演出する「愛のある」服。どんな服が来年3月に登場するか、期待しましょう。


スペース・クチュール・デザインコンテスト
http://www.space-fashion.com/