前回に続き、陸域観測技術衛星「だいち」サイエンスマネージャーの島田政信さんに、「だいち」のスゴさと今後の注目ポイントをうかがいました。
― 「だいち」の3つあるセンサーの一つ、パルサーは「森林観測で世界で敵なし」だと伺いましたが、もう一つのスゴイところって何ですか?
島田:例えば地震なんかが起こったときに地殻がどのくらい動いたか、1cmの変化もとらえられるんです。これができるのも世界で「だいち」だけです。この3月25日に起きた能登半島地震でも最大45cmの地殻のずれを確認しました。
他にもマイクロ波センサーを搭載している衛星は世界にありますが、波長がもっと短くて木々の葉っぱで跳ね返されてしまう。葉の下まで透過して地面の様子が洪水なのか、伐採されているのかとらえられるのは、今世界で「だいち」しかないのです。
― それはもっと、自慢してもいいですね。海外の衛星って今、どんな傾向にあるんですか?
島田:高分解能、細かいところが見える商用衛星が出てきていますね。たとえば自分の家の近所や、今日出かける場所の周辺を調べるような目的に非常に合致していて、地球の表面を可視光でよく見えるセンサーがほしいと。色んな国がそのタイプの衛星を上げる傾向にあって、アメリカの商用衛星「イコノス(IKONOS)」を初めイスラエル、タイ、韓国も1m級の分解能の衛星の計画があります。
― 私たちもよくウェブの地図検索・情報サービスをを利用しますが、「だいち」で実現できたりしませんか?
島田:私も重宝していますよ。次の会議場がどこにあるか調べたりね(笑)。
今、パルサーを用いて熱帯林を研究する機関が21あります。アマゾンの伐採林のような画像を、北米、シベリア、ヨーロッパ、南極、東南アジア、など世界の色んなところを対象地として作り、これら研究機関に提供しようと思っているんです。研究機関では、さらにバイオマス量だとか森林劣化とかをもとめます。
その結果をウェブ上で地図情報サービスに貼り付けてみせたりすると、すごくわかりやすいですよね。ズームしたり回転させたり、立体的に表示したり・・・。そういうものが作れないか、考えています。
― それはスゴイ! 私たちも見られますか?
島田:まずはJAXAおよび21の研究機関の間だけで、その後、一般の方にも可能性はあると思いますよ。
― ぜひ! 楽しみですね。今後、「だいち」で特に注目して欲しいことは?
島田:一つは今の話と関連しますが、森林の伐採量とかバイオマス、つまり木の量がどれくらいあるかが地球規模でわかってくるんじゃないかと。それは1、2年ぐらいかけないと十分な検証ができません。具体的には森林量を示す色のついた全球マップができて、2006年の○月~○月、2007年の○月~○月という時期的な変化も見られる。森林の変化や湿原の変化など、水管理系に関係するようなマップもできるのではないかと思っています。
― 色々なマップができそうですね。
島田:そう。そのために大量の衛星データのみならず地上の検証用のデータを集めないといけない。地道な作業が続きます(涙)。
もう一つ面白そうなのは、他の衛星データ、例えば「イコノス」とかフランスの地球観測衛星「スポット」、「だいち」のデータのいい点をうまく抽出して組み合わせて、できのいい地図のデータベースを作っていくという動きがあります。ニーズの高い限定された場所になりますけどね。
―これまた画期的!・・・では、島田さんの個人的楽しみは?
島田:やはり私はパルサーで見る地殻変動がどうしても興味深くて(笑)。実は地上だけではなくて、電離層の変化も見る感度もあるんじゃないかと最近考えているんですよ。それから地球の動きから言うと、恐竜の絶滅するよりずーっと以前、2億年前にはゴンドワナ大陸と言われてまとまっていた大陸が、それ以降ゆっくりと動き、大陸間が離れて今の世界になっていますよね。今、最も大きく地殻が動いていると言われているのがヒマラヤ山脈とデカン高原。ヒマラヤが南下してデカン高原が北にあがって衝突しているのですが、年に3~4cm動いている。それがパルサーでとれれば、こんなにスゴイことはない!
―データはとっているんですか?
島田:データは取りつつあります。ただ、まだ計算機の処理能力が追いつかないのです。本当はそこをやりたいんです!
陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」のページ
http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/index_j.htm
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