コラム
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2007年 6月分 vol.1
初仕事は、土井飛行士への第一声「ようこそ『きぼう』へ」
フライトディレクター・松浦真弓さんインタビュー(その1)
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」が打ち上げられたら、ぜひ地上とのやりとりに注目。「きぼう」の宇宙飛行士に指示を出し、緊急時にはトラブルシュートにあたるのがJAXAつくば宇宙センターのフライトコントロールチーム。そのリーダー、フライトディレクター(FD)のひとりが松浦真弓さん。2008年2月に予定される土井飛行士の「きぼう」組み立てミッションでデビューする。どんな訓練を行っているのか、そもそもどんな仕事なの? 松浦さんにお聞きしました。

― 最近は、毎日どんなお仕事をされていますか?

松浦:まず「手順書作り」です。宇宙飛行中に、宇宙飛行士や地上のフライトコントローラー達が使うのが手順書で、その審査会が秋頃にあります。NASAやJAXAの担当者が中身に問題ないか、よってたかって審査する(笑)。その準備に追われています。

筑波宇宙センターの運用管制室。フライトコントローラーの役割は大きく分けて10。それぞれの担当が3交代で24時間体勢。チーム全体で約30人。 
(1)CANSEI(カンセイ)コンピューター、通信、電力系機器担当 
(2)FLAT(フラット)環境・熱制御機器を担当 
(3)J-COM(Jコム)宇宙飛行士との交信担当 
(4)J-FLIGHT(Jフライト)フライトディレクター 
(5)SENIN(センニン)システム担当。 
(6)J-Payloads(Jペイローズ)宇宙実験などの担当 
(7)TsukubaGC(つくばGC)地上設備担当 
(8)ARIES(アリーズ)宇宙飛行士の船内作業を担当 
(9)KIBOTT(キボット)ロボットアーム担当
(10)J-PLAN(Jプラン)スケジュール作成・管理。

― 手順書ってどんなものですか?

松浦:たとえば、宇宙飛行士が「きぼう」の中でバルブ(ふた)を開ける作業をするとしますよね。そのときにどんな操作をするのか、宇宙飛行士用と作業を指示する地上のコントローラー用と2種類を私たちが作ります。目的は同じでも宇宙飛行士と地上のコントローラーが行う作業は、押すボタンも違うし画面表示も違いますから。

 しかもバルブが開かなかったらどうするか、という不具合用も作ります。それも色んなケースが考えられるわけですよ。全然あかない場合とか、半分までしかあかない場合とか。言い出すときりがない(笑)。だから起こりそうな不具合と、起こったらすぐに処置しないといけないものをまず作っておく。

― 手順書だらけになりそうですね。何種類ぐらいあるんですか?


松浦:同じ質問を2000年にNASAに修行に行ったとき、シャトルのフライトディレクターに聞いたら1000を超えるって。「嘘でしょ?」と。でも数えたら本当に1000を超えた。操作一つ一つに不具合が起こった時、火事の時、シャトルの場合は打ち上げとか着陸とかもありますからね。「きぼう」の場合は大きく分けると「操作用」、「メンテナンス用」、「不具合用」、「緊急事態用」、それから最初しか使いませんが「組み立て用」もあります。

― うわ、大変ですねー。

松浦:大変なんですよ。私たちの仕事って、実際の宇宙飛行中よりも事前の準備が90%か95%を占める。残りが本番。本番が順調に進むための準備が大変で、手順書を作ったり、手順書も全部は作りきれないから、何かあったときのためのルールを作ったりしています。

松浦真弓さん。運用管制室の前で。1965年生まれ。1986宇宙開発事業団(現JAXA)入社。2000年NASAフライトディレクター室で半年間の現場訓練を受ける。ご主人もJAXA職員で地球観測のお仕事をされている。「愚痴をしょっちゅう言ってます。『ふーん』って聞いてないみたい(笑)」。 ― もちろん、実際の運用の訓練も平行して行っているわけですよね?

松浦:はい。秋から合同シミュレーション訓練が始まります。これは実際のミッションに参加するのと同じメンバー、宇宙飛行士もNASAのフライトコントローラーも全員が参加して本番のスケジュールに従って私たちが作った手順書を使いながら、ある1日を丸ごと模擬するものなんです。それに耐えられるように訓練をやっています。

― 仕上がり具合はいかがですか?

松浦:今年の1月に比べると前進してますね。こちらがお願いしたことに対して期待したことが返ってくるアクションとかスピードとか。だんだんレスポンスがよくなってます。

―今、一番心配していることは?

松浦:まずは「きぼう」の船内保管室が無事にドッキングして、土井飛行士が元気にその中に入ること。ドッキングしないと話が始まりませんから。

―最初の仕事は?

松浦:土井さんが「きぼう」に入ってきたときに、「ようこそ『きぼう』へ」と第一声を言うことかな。実際に土井さんと話すのはJ-COM(ジェイコム)の仕事ですが、歴史的な瞬間になるので、「気の利いたセリフを言ってね」と。とちらずに、いかにかっこよく決められるかを私は横で聞いてます(笑)。


(その2)に続く