日本初のフライトディレクター、松浦真弓さんへのインタビュー2回目。フライトディレクターとは、どんなトラブルにも速攻で解を出し、話して聞いてパソコンを操作して食べる・・そんな技をも身につけなければならなかった・・・!
― フライトコントローラー(FC)達がよく使うセリフってあるんですか?
松浦:まずは「コピー(Copy)」かな。シャトルミッションで宇宙飛行士の会話を聞いているとよく出てきます。日本語では「了解」。他には「ゴー(Go)」かな。やっていいよ、という意味。「この作業を始めていいですか?」と聞かれて「You Have a Go」とかね。打ち上げの時はローンチディレクター(打ち上げ責任者)が準備はいいかい? とチームに聞いてみんなが「ゴー」「ゴー」とそろうと「Go for Launch」。
― カッコいいですねぇ。ゴーだったら赤く光るボタンとかってないんですか?
松浦:あります。うちのチームでは作ってないですけど宇宙ステーション全体ではそういうツールがあって、NASAとか筑波とかヨーロッパとか準備が整ったらパソコン画面のボタンをクリックすることになってます。筑波の準備が整ったら筑波のフライトディレクターが所定の色のボタンをクリックする。で全部同じ色になったら「ゴー」。
― 松浦さんは日本のチームだけじゃなくて、NASAとの連絡もとるわけですよね。一度に何人ぐらいの声を聞くんですか?
松浦:常時最低4つ以上はスイッチが入ってますけど、実際には一人ぐらいしかわからない。私はNASAの宇宙ステーションのフライトディレクターとは英語で、つくばのフライトコントローラー達とは日本で。ちゃんぽんになってますね(笑)。
― 2000年に、修行をしろとNASAに行かれたんですよね?
松浦:ようやく日本にもフライトコントロールチームを作ろうという頃で、フライトコントローラーって何? というのが人によってイメージがバラバラでしたね。2000年の3月からNASAに行って訓練を見せてもらったりして。とにかく日本のフライトコントローラーに必要な物が何かを見てこようというのが、テーマだった。
― つかみましたか?
松浦:・・・と思いますよ。例えば手順書っていうのがイメージできなかったのがNASAで実際に使っているモノを見ることでどういうものかがわかったり、1000もあるんだ! とか(笑)。
― これは大変だぞ、と思いましたか? それともカッコいいな、やってみようと?
松浦:カッコいいなと思った場面ももちろんあったけど、こりゃ大変だ、えらいことだと。
―何に「こりゃ大変!」と思われたんですか?
松浦:とにかく対応が早い。何かトラブルが起こっても、1分か2分以内に解決すると説明を受けて「嘘でしょ!」と思ったけど本当にそうだった。そういうふうにならないといけないのかと。一番それが感動したところでもありましたけどね。
―つまりは解決するためのノウハウを持っているということですか?
松浦:手順書を作る段階で、色々なケーススタディを想定したり議論したりしているし、チームビルディングができているから、何か起きたら誰がどう動けばいいかがわかっている。もちろん1分で解決できない問題もあるけれども、たいていのことは分オーダーで対応している。同じことを「きぼう」が打ちあがったら日本でもやらないといけないんですよね。日本人的発想だと、何か問題が起こったら関係者が集まって、よろしいかと手続きがあって、下手すると半日とか1日たってしまう。それじゃいけない。NASAがそういうペースでやっているなら、日本もある程度ついていかないと。
―NASAのフライトディレクターは権限を与えられている?
松浦:色んな考え方があってNASAと日本のフライトディレクターが持っている権限は違う。日本流のやり方で追いついていかないと。
―憧れのフライトディレクターはいますか?
松浦:半年間、指導担当でついてくれたチャック・ショーが目標です。今はフライトディレクターの仕事をしていませんが、とにかくスゴイ。一度に色んなコトをやっている。手順書見ながら指示を出しながら、画面見ながらログをとりながら話を聞きながらご飯食べながら、っていう感じで。
―ご飯も食べながら!?
松浦:8時間、卓についている間に食事もとらないといけないんですが、そんなに席を離れられないんです。でも食べないとスタミナが切れるので。どのフライトディレクターも同じようにやっているんですけど、チャック・ショーはそのやりようがスゴイ。
―この仕事の醍醐味はなんですか?
松浦:たぶん「ゴー」「ゴー」とみんなからゴーサインをもらってヒューストンに「筑波はゴーだよ」と連絡して、タタタっと物事が進んでいるときでしょうね。今はシミュレーションの世界ですが、本当の醍醐味はこれからだと思っています。
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