コラム
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2007年 9月分 vol.2
家族でハマる皆既日食、その極意とは。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 今回の月特集のスペシャル対談で渡部先生にお会いしたときのこと。私は渡部先生に会うと、いつもお聞きすることがある。「次はどこに何を見に行くんですか?」と。実は渡部家は「行動する天文一家」である。特に日食に関してはマニアと言っていいほど(日食は一度見ると病みつきになると言うからね)。前回、2006年3月29日の皆既日食もご家族でエジプトまで出かけてしまったというから、筋金入りだ。

2006年3月29日、エジプトのサルームで撮影した皆既日食。画像上部に、吹き上げる炎のようにプロミネンスが見える。小さく見えるが地球数個分の大きさ。この写真は7.8cm口径の望遠鏡にカメラをつけて 
ISO100のフィルムで撮影したそうだが、双眼鏡でもプロミネンスを見ることができるらしい。(撮影:石川勝也さん)  渡部家では過去エジプト、ブルガリア、ハワイ、小笠原に日食を見に出かけたほか(ブルガリアには幼稚園児だったお子さんも連れて!)、2004年にはニート、リニアの2大彗星を見にオーストラリアに、2002年にはしし座流星群を見にアメリカを訪れているという。

 世界のあちこちにフットワーク軽く出かけていき、天文現象を体感してきたわけだが、最も感動したのは「やっぱりエジプトの皆既日食」と奥様の好恵さんは断言する。「エジプトは太陽神ラーの国だということを実感した。頭の真上でぎらぎらと輝き、じりじりと肌を焼く太陽エネルギーの強烈さ。日本と太陽の存在感がまったく違うことを体で感じる。」日食前に激しいスコールがあったせいで、大気の透明度がアップして絶好の日食日和になった。そしてその強烈な太陽が隠れた瞬間、「子どもたちも『すげぇー』と感動してました。」

 さらに、太陽を神と仰ぐエジプトの人たちの様子も非常に興味深かったとか。前回、1999年8月にエジプトで日食があったときには、神である太陽が隠れたら何が起こるかわからないと外出は禁止され、手術などの医療行為も禁止されたらしい。「でも結局、太陽が隠れても何も起こらなかったことがわかって、『見てもいいんだ』と若い人は思ったらしいのね。初めて日食を見て『スゴイ物を見た~』と驚いていた。でも年配の人は一生懸命お祈りをしてたね」。こういう地元の人の感覚は、やっぱり現地に行ってみないとわからないものだ。「お年寄りのおでこのところには『祈りだこ』があるんだよ」と好恵さん。ひぇー。

 ところで、皆既日食の楽しみかたは?「双眼鏡が一番いい。太陽が隠れた瞬間に双眼鏡で見るとプロミネンスとコロナがはっきり見られるよ」とのこと。次の皆既日食は2009年7月22日、なんと屋久島やトカラ列島などで見ることができるのだ。 好恵さんのお勧めは「船で見る皆既日食」。「小笠原で見た日食のときもそうだったんだけど、一箇所が曇っていても船なら移動して晴れ間を探してくれるから」。なるほど、いい事を聞きました!

 さて、冒頭の渡部先生への質問「次はどこに何を見に行く?」の答えは、意外なことに日食ではなかった。渡部家の次なるターゲット、それはスペースシャトルの打ち上げ。アマチュア天文家でもある土井隆雄飛行士の打ち上げを見送りにNASAに行くそうだ。

 しかし・・・なぜそんなに海外に頻繁に行けちゃうのですか?「だって他のことにお金使わないから。打ち上げ見るから我慢ねって」。家族の趣味が一致していることが大前提か。ここが結構ハードル高いかも。でも自然が与えてくれる感動はお金で買えない価値がある。好恵さん曰く、皆既日食を体感すると現実が吹き飛ぶそう。2009年の日食で感動体験してみますか。