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2007年 10月分 vol.2
向井さん、日本で宇宙医学研究+「77歳までに宇宙へ」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


向井千秋さん。10月1日付けで、JAXA宇宙医学生物学研究室長に。「来年は、日本人が宇宙に次々飛行し、つくばコントロールセンターから呼びかける画期的な年になります」  向井千秋さんが日本に帰ってきた。1994年、98年の2度の宇宙飛行後はNASAやフランスの国際宇宙大学を拠点に活躍していた向井さんだが、いよいよ日本人の国際宇宙ステーション長期滞在が始まるにあたり、JAXA宇宙医学生物学研究室室長に就任。だが宇宙飛行士を引退するわけではない。「77歳で宇宙飛行したアメリカのジョン・グレン氏のように、私も77歳までに宇宙に行くつもりです」とパワフルに語った。

 1952年群馬県館林市に生まれた向井千秋さんは、宇宙飛行士になる前は慶應病院の心臓外科医だった。1994年の宇宙飛行では82テーマの宇宙実験を実施、そして1998年の宇宙飛行では当時77歳の上院議員ジョン・グレン飛行士と共に宇宙飛行、生命科学や医学の実験を行った。2度の飛行以外にも、複数のシャトルの宇宙実験プロジェクトに深く関わり、「シャトルの黄金時代」を幸運にも経験してきたと振り返る。世界屈指の宇宙実験(特にライフ系)のスペシャリストだ。

 その向井さんが豊富な経験と人脈を全投入して、日本で宇宙医学の研究に取り組むことになった。当面は日本人の長期滞在の支援、そして宇宙ステーション以降の月・火星への有人飛行のための研究。臨床的に宇宙で起こる症状に対処するだけでなく、基礎的なメカニズムも解明した研究を進め、地上の医学や生活にも役立てたいという。

1998年、2度目の宇宙飛行中の向井さん。左は当時77歳のジョン・グレン飛行士。まだ50台半ばの向井さん。遠隔医療もいいけれど「ちょっと宇宙でオペしてくるね」と宇宙にすぐ飛んでいきそうだ。(提供:JAXA)  とりくむのは骨量や筋力減少、放射線や精神面の対策等に加えて、地上からの遠隔医療や、閉鎖循環環境(ミニ地球)の研究もある。向井さんによると、月や火星への飛行でどんな病気が考えられ、どう対処するか、どんな医療機器が必要かの洗い出しも現在、国際的に進められているという。「たとえば月の砂ぼこりによる肺への影響が考えられます。月までの通信時間(往復2.7秒)なら、地上からの遠隔医療も可能ですが、3日で地球に帰すことができるので、症状によって月で処置するか地上へ返すか振り分ける必要がある。」火星は通信が約20分かかり遠隔医療は難しい。火星への飛行中に乗組員の一人が死亡したらどうするか、という最悪のケースも想定し検討しているとか。宇宙の医療では日本のIT技術や民生品の活躍が期待され、逆に宇宙で活用された技術は地上にフィードバックできるそうだ。

 「やりたいことがいっぱいなんです」と笑う向井さん。「3度目の宇宙飛行は?」とたずねると、「行くつもりです」と即答。「もちろん今、順番待ちをしている若い飛行士たちが飛んで、研究段階になったら。グレン飛行士も77歳で飛んでますからね。ただ彼と一緒に飛んで感じたのは、77歳で飛んだ彼もエライけど、もっとスゴイのは彼を宇宙に送り出して無事に帰したNASAの宇宙医学の蓄積。やはり月に人間を送った国だと感激しました。」日本の宇宙医学はこれから向井室長によって蓄積され、様々な展開を見せてくれそうだ。