太陽から「風」が吹いているのを知っていますか? 宇宙空間は真空で音もなく地球のように雨もふらない、一見静寂の世界。だから地球周辺で秒速300~800kmにもなる超高速の粒子の流れである太陽風を、私たちが肌で感じることもない。だが太陽系を満たす太陽風は、地球や木星上空にオーロラを光らせ、時に人工衛星の機器にダメージを与える悪さをして、私たちの日常生活にも影響を与えている。にも関わらず太陽風には謎が多い。太陽のどこから出るのか、どうやって超高速になるのか等々。その謎の一つ、太陽風が太陽から吹き出す「現場」を日本の太陽観測衛星「ひので」が初めて観測に成功した。 その現場をとらえたのが右の画像。画像中央から筋状に吹き出しているのが太陽風で、温度は約100万度、秒速140km前後。ムービー(下のリンク先から)は約6時間観測したものだが、太陽風は3日間の観測中常に見られたという。しかも流れ出るガスは、太陽風が宇宙空間に放出する質量の約4分の一。つまり、太陽風が流れ出る「源」をとらえたと言えるのだ。この観測で太陽風の理解が進み、地球周辺に影響を及ぼす太陽活動を予報する「宇宙天気予報」の進展も期待できる。 2006年9月23日に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」の発見ラッシュは続く。ひので科学プロジェクト長の常田佐久教授によると「今までの太陽観測は『度のあっていないメガネ』で太陽を見ていたようなもの。ひのでのデータを見ると世界中の研究者が『あっ』と驚きます。」とのこと。太陽物理学の教科書が書き変わるテーマが目白押しだという。その成果は米科学誌サイエンス(12月7日発行)で特集され、表紙も飾るほど世界をリードしている。 今回サイエンスには9編の論文が発表されているが、もう一つ注目したいテーマがある。太陽最大の謎「火のついていないガスコンロの上でやかんが沸騰している」状態、いわゆる「コロナ加熱」問題の解明につながる発見だ。太陽表面が6000度しかないのに、上空のコロナは100万度以上。通常ならコロナも6000度を超えることはあり得ないのに、何がコロナを温めているのか。これは太陽のみならず、他の天体にも共通する問題で、「ひので」が挑む最大のテーマだ。 コロナ加熱には2つの仮説が立てられている。「波動加熱説」(太陽表面の磁力線の波で熱を伝えて温める)と「ナノフレア説」(小さなフレア《爆発》をたくさん起こして加熱する)だが、どちらも直接の証拠は発見されていなかった。ところが今回、「波動加熱説」の証拠となる波(アルベン波)の観測に成功したのだ。(下の写真)