昨年末、宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」のプレス公開で、オモシロイものを見つけた。JAXAつくば宇宙センターのクリーンルームに鎮座した主役「きぼう」の影にひっそりと、しかしただならぬ雰囲気を醸し出す模型があったのだ(写真)。「きぼう」の3つのパーツそれぞれに搭載する実験装置や配線まで、かなりマニアックに作られている。だが材料はストローや割り箸、薬のふたなど日用品が使われ、中にはおもちゃの宇宙飛行士がガッツポーズ。手作り感と遊び心満載だ。聞けば「きぼう」プロマネの長谷川氏が作ったとか。かなりユニークな人に違いない! とさっそく取材を申し込んだ。
つくば宇宙センターで、国際宇宙ステーション・プログラムマネージャー長谷川義幸さんは模型を並べて出迎えて下さった。なんと、「きぼう」だけでなく、「きぼう」を運ぶ3スペースシャトル3機も並んでいる!「全部で3年半から4年かかりましたね。風呂上がりに家にある材料を使って、毎日2時間ぐらい。気づくと1時半ぐらいになって『寝ないとマズイ』って思うんだけど、形になるとうれしくて凝り始めたりしてね(笑)」。
長谷川さんが模型を作り始めたきっかけは2003年頃。スペースシャトル・コロンビア号事故が起き、JAXAでもロケットや衛星のトラブルが相次いだ。そこでNASAも日本も「特別点検」を行うことに。「『きぼう』をシャトルに積んでISSにドッキングさせて本当に10年間もつのか、あらゆるケースを想定して点検し始めたんです。『シャトルに積んだ時に引っかかるところは?』、とか『きぼうをドッキングさせる途中に、ロボットアームが動かなくなったら?』とかね」。
最初は図面だけで議論していた。「でも紙と口で『これがあれが』と担当者が言うことが、他の人にはまったくわからない。それで模型を1個作って『これで説明しろ』と。すると例えば『きぼう』の呼吸用の空気がどこを通ってどこで汚染物を取り除くか、流れが見えてくるんです。それに『きぼう』は色々なメーカーさんが別々に作っていて、他との関係を意識していなかった。くみ上げて初めて『ぶつかるね』とわかるんです」。実際シャトルに格納したときに、シャトルのロボットアームのカメラと「きぼう」の手すりが当たることが判明。NASA担当者とも模型を囲んで解決策を練った。「この模型いいね、くれない?」とNASAにも大好評だったとか。
長谷川さんの模型作りは、小学生の時の「鉄道模型」以来。当時の材料が「きぼう」模型にも随所に使われている。だが大部分は紙とブロックとプラスチックフィルム+日用品。凝ったのは、ロボットアームやアンテナを動かせるところ。格納方法を検討するために、実物と同じように展開できるスグレモノなのだ。
さて、いよいよ打ち上げがせまってきた「きぼう」。現在の心境は?「複雑です。JAXAの開発完了審査も、NASAの厳しい審査もパスした。でも有人宇宙施設の開発も運用も経験がないので、どこまでやれば十分なのか、正直よくわからない。とは言え100%を目ざしたら絶対に打ちあがらない。あとは打ち上げを待つだけ。早く「きぼう」がISSにくっついて日本が有人宇宙活動に新規参入したところをお見せしたい。「きぼう」の経験は、日本の次の高度な有人宇宙技術修得への重要な足掛かり。月や火星につながるものです。」
長谷川さんによれば、「きぼう」はゴミがなく綺麗で(普通はケーブルのきりくずなどが残っている)、色もカッコいいと各国の評判がいいそうだ。隅々まで装置を詰め込み細かく配線した「盆栽のような」職人芸は、日本ならでは。なるほど、嬉々として模型作りに没頭する長谷川さんのような技術者たちだからこそ、作り得た実験室なのである。
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