コラム
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2008年 2月分 vol.2
日本製「ふだん着」で宇宙ライフをもっと快適に。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


土井さんが宇宙で着る、運動着の上下(汗の移動に考慮してある)。保温性の実験中。  スペースシャトルが無事に帰還して、次はいよいよ、日本人飛行士・土井隆雄さんが日本実験棟「きぼう」を宇宙に運ぶ。そのメインの仕事に注目するのはもちろんなのだが、土井さんが仕事中に宇宙で着る「ふだん着」にも、ぜひ注目してほしい。日本のハイテク繊維技術を駆使し、宇宙仕様に作られた「快適さ抜群」のふだん着なのだ。

 どこがスゴイのか。驚いた点を2つあげたい。一つは、下着。青い下着がキラキラ光っているのだ!「なぜキラキラしているのですか?」と衣服を開発された日本女子大学の多屋淑子先生(近未来宇宙暮らしユニットリーダー※)に伺うと、「銀です。繊維に銀をコーティングすることで消臭効果を狙っています」とのこと。なるほど、宇宙では洗濯もできないし、着替えも頻繁にはできないからね。さらに半ズボンや長ズボンには、ナノ(千分の一mm)レベルの加工技術で汚れを分解し、体臭や汚臭除去などの機能を持つ素材を使っているのだという。「快適さ」への追求は半端じゃない。

 もう1点は、シルエット。宇宙用のふだん着のうち、下着、長ズボン、半ズボンはパタンナー(デザイン画から服を仕立てるために必要な型紙を作る人)として初めて「現代の名工」に選ばれた沼田喜四司さんが、宇宙特有の中立姿勢(やや前屈の姿勢)を考慮してパターンを作ったそうだ。姿勢だけじゃない。宇宙に行くと上半身に体液が移動して体型が変化(例えばウェストがきつく感じたり)することもふまえ、名工ならではの工夫が随所にあるという。土井飛行士の「着こなし」にも是非注目したいところだ。

 ほかにも、汗をかいたときの吸湿、吸水、速乾性や、保温性(宇宙船内は日本人には寒いらしい)は当然考慮されているし、縫い目のない「無縫製」技術で軽く肌触りよく仕上げるなど、心憎いばかりの気配りが満載。なぜかと言えば、この宇宙のふだん着の技術を、福祉の現場にも生かすことが目的とされているからだ。多屋教授はすでに、宇宙のふだん着開発を通して得られた技術で、重度の心身障害を持つ方達の成人式用に、消臭加工などを施した軽くて皮膚への刺激の少ない衣服を作り、実際に着た方達に大好評を得たそうだ。

 宇宙用の衣服が、福祉の現場で生かされる。「極限」という意味では両者には様々な共通点があるのかもしれない。宇宙と地上が衣服でリンクするなんて画期的で、期待大だ。それにしても一度、試着してみたいものですね。例えばずっと着てても匂いがしないの? ってちょっと実験したくないですか?


※ JAXA宇宙オープンラボ制度でJAXAと共同研究を進めている。ユニットには複数の繊維メーカーなどが参加している