「きぼう」と書かれた青い暖簾をくぐって飛び込んでいく宇宙飛行士達は、踊ったりくるくる回転したりはしゃぎまくっていた。地球上空約400kmに浮かぶ国際宇宙ステーション(ISS)に星出彰彦宇宙飛行士がとりつけた「きぼう」船内実験室が、6月5日午前6時5分(日本時間)オープン。真っ先に「きぼう」に入った星出飛行士はカメラに向けて「いらっしゃーい!」と書かれた紙を見せた。いいですねぇ。暖簾とくれば、やきとりにビール?・・・と楽しい妄想がふくらみます。
つくばの管制センターで見守っていた管制チームのメンバー達は、満面の笑みで拍手。フライトディレクターの東覚芳夫さんは「暖簾にはびっくり。小ネタがあるとは思ってましたが、星出さんらしい気の利いた演出ですね」。星出飛行士と東覚さんは同じ年で、頻繁にメールをやりとりし何でも話しあえる仲。それだけに「中のビデオカメラもセットして、『きぼう』入室の瞬間からちゃんと迎え入れてあげたかった。」うまくいって嬉しそう。
それにしても、「きぼう」はまるで体育館のように、広い。ISS実験室の中でも最大だ。NASA広報担当官は「10ベッドルーム」とか「ダンスパーティーもできてISSの不動産価値が上がった」とまで表現。だが「きぼう」のプログラムマネージャー長谷川氏は、「大きいだけじゃない。『きぼう』は携帯電話と同じ」と強調。いわく「日本の携帯電話は小さい中に、カメラや財布など多機能を持たせている。『きぼう』もエアロックやロボットアームなどたくさんの機能を詰め込んでいて、他国にはできない」という。
「きぼう」は綺麗で広くて多機能なことはよくわかった。なら尚さら、今後の使い方が勝負だ。科学実験を8月頃に開始し、CM撮影などの商業利用も秋頃から始まる予定だ。
宇宙実験は大きくライフサイエンス実験と材料実験に分かれる。「きぼう」の開発が始まった20年前と比べると、生命科学では遺伝子・ゲノム情報を駆使する時代になったし、材料実験では地上のナノ技術等が進歩した。そんな研究の動向に対応しつつ、宇宙ならではのメリットを生かした実験が求められている。具体的には、宇宙で筋肉が衰えるメカニズムを遺伝子レベルで調べて地上の医療に応用したり、光を操る結晶「3次元フォトニック結晶」を作り、大量の情報処理技術に応用したりする実験など約100件が予定されている。星出飛行士が「実験募集!」と示した通り、今も実験は大募集中。科学的に価値ある実験、または地上に役立つ成果を出さなければ、というプレッシャーで実験担当者は必死の状況のようだ。
でも私たち一般人にしてみれば、宇宙で楽しそうな飛行士達を見るたび「宇宙に行きたい」という想いが募るのが本音。なのにその道筋が見えないのが残念だ。NASAは2015年でISS運用を終了するとしており、その後の有人計画を日本は発表していない。
ある日本人宇宙飛行士に取材した時、「計画がないことや膨大な予算の問題もあるが、図面を一からひいて物作りを進める『人材』が日本に少ないことが心配」と言っていたのを思い出す。確かに『きぼう』を作った技術者には異動した人、退職している人も多い。人の中に技術は宿るから、これは危機的状況かも。「きぼう」の技術の高さが評価されつつある今が、起死回生のチャンス。宇宙の映像を見て子ども達が抱いた希望を裏切らず、大きく開花させるために、技術も人もどんどんつなげましょうよ~。
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