コラム
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2008年 7月分 vol.1
宇宙で飲む、美味しい水は「屋久島」の味。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


JAXAの小口美津夫さんとデモ用の水再生装置(右)。  暑い夏。ゴクゴクと喉を潤す冷たい水は欠かせませんね。でも、この水が美味しくなかったら? しかも飲む量が制限されていたら?「宇宙で飲むコップ一杯の水は30万~40万円です」というのは、JAXAの主任研究員、小口美津夫さん。それじゃ飲むのをためらってしまう。そこで、小口さんは企業と協力し、宇宙で尿から美味しい水を作る浄水器を開発している。

 今、宇宙ステーション(ISS)で宇宙飛行士達が飲む水の大半はNASAのスペースシャトルかロシアの補給船プログレスで運んでいる。ISS内の空調で湿気を回収し浄化して飲み水に使っているものの、量は多くない。だから地上からの運搬費で宇宙の水は高額になるというわけ。NASAの資料によると、宇宙での飲料水は一人一日1.62リットルに制限されている。ペットボトル約1本だ。「宇宙の水は美味しくないから、飛行士たちは珈琲やジュースにするなど味をつけて飲んでいる。味だけでなく質も問題です。NASAとロシアは水質の基準がちがうため、ロシアから運ばれる水は有機物が多く、日本の水道水の基準の4倍以上にもなります。」(小口さん)うーむ、聞けば聞くほど不安になる水事情。

珈琲やウーロン茶、酢、塩を混ぜた液体もデモ機を通せば美味しい水に。不思議なことに酢の匂いも消えている。  宇宙で美味しい水を飲みたい。長く暮らすなら、それは当然の要求だ。そこで小口さんは生活排水はもちろん、オシッコからも美味しい水を作ってしまおうという究極の浄水器を開発中だ。海水を淡水に変える浄水器を実際に販売している関西の企業と協力し、開発中の「宇宙用水再生装置」の肝は「逆浸透膜」。1千万分の一ミリという目に見えない穴で、水中の最も小さなウィルスも通さない。農薬も除去できるほど。問題は、穴が小さすぎて水分子さえも通りにくいことだった。高い圧力をかければいいのだが、それでは装置が大きくなりすぎる。試行錯誤の結果、ふるいにかけるように水分子を電気的に躍らせて、通す技術を確立。装置の小型化に成功した。

 純度の高い水はできるが、それだけでは美味しくない。自然のミネラルを水に浸透させるのが最後の仕上げだ。できた水の味は「屋久島の水の味です。実際に屋久島の水を分析して、ミネラル成分の配合を同じようにしています」。宇宙で「屋久島の水」を味わう! いいですねぇ。

 この水再生装置、今年度中には地上の実験機を完成させ、航空機で無重力実験を行う予定。そして、ISS日本実験棟「きぼう」での実証試験を目指す。完成型は6人の人間が一日に出す尿と生活排水約200リットルを8時間で処理できる。実はNASAが今年秋に尿から水を作る「水再生装置」を打ち上げるが、タテヨコが2m四方と大きい。「その半分から四分の一の大きさで消費電力も少ない装置が目標です。」頼もしいですね。小口さんによれば、この装置の技術は、災害時の飲料水の確保など地球上でも大いに活用できるという。宇宙でも地上でも今、まさに求められている装置と言えるだろう。