若田飛行士が乗り込むスペースシャトル・ディスカバリー号の打ち上げが延期された。今回は私も次男と打ち上げを見に行こうと、諸々手配済みだったのでキャンセル代はイタイ。だが担当の方達はエライ大変そうだし、そもそも人命がかかった打ち上げ。安全第一である。長期滞在に向けて若田飛行士は、どんな気持ちで家族と過ごしているのだろう。JAXA宇宙飛行士健康管理グループ長である立花正一さんは「若田飛行士はストレス解消がうまい。メンタルヘルス面で彼の長期飛行にまったく不安はない」という。
宇宙ステーションに長期間くらす間にはメンタルヘルス面で様々なストレスがかかる。たとえば閉鎖された環境で、言語や習慣などの異なる異文化の宇宙飛行士だけで数ヶ月間くらすこと、任務は満載、職住接近でプライバシーは小さな個室の中だけ。そんな環境でくらすうち、徐々に意欲やパフォーマンスは低下し、クルー同士の関係も悪化、不安やイライラ、睡眠障害などの症状が出て、過去には抗うつ剤を飲んだ宇宙飛行士もいるという。
そうならないように、飛行中のメンタルヘルスケアはどう行われるのか。まず、専門家による2週間に一回15分の面接を筑波からテレビ会議で実施、また家族や友人とは週1回、さいたま市に住むお母様とも月に1回程度テレビ電話で話すことができる。電子メールはもちろん使えるし、各飛行士に一台ずつIPフォンがあって電話もできる。親しい人との会話は最大のパワーの源。可能な限り頻繁に行えるようになっているのだ。
もちろん、面談だけでなく、心理検査POMSやWINS-CAT(NASA開発認知機能検査)などを月1回程度行い、地上で行ったときのデータと比べて、自分では意識していなくても疲れていないか、ストレスを感じていないかを定量的に評価する。
以前、若田飛行士に異文化によるストレスについて聞いた時、意外な答えが返ってきた。「よくISSでは異文化を持つ飛行士がくらすことでストレスが起こるといいますが、ぼくは文化の違いでなく個人差が大きいと思います」というのだ。つまり文化といっても色々あって、国や宗教、職業(パイロットとか科学者とか)、性別などは個人を覆う殻のようなものに過ぎないと。その殻をむけば本質が表れる。「ロシア人でも『日本のサムライみたいだな』と思う飛行士もいますよ」と若田さんは言う。むしろ大事なのは、個人の違いを早いうちに自覚して、チームワークをどう作り上げていくかを訓練するかだという。(このあたりは近著『国際宇宙ステーションとはなにか』に詳しい。是非ご一読を)
そんな若田さんのモットーは「人生は楽しく」だという。今なすべき仕事と、一緒にいる仲間に神経を集中する。人生の中で同じ時間を共有できる人は限られている。その人との一瞬一瞬を大切にしたい。いつ死ぬかわからないのだから。この話を本の製作中に聞いたとき、宇宙で死を意識した人の言葉だな・・・と感じた。
きっと若田さんは宇宙でも一日一日を楽しむだろう。でも、もしストレスがたまったら・・・ストレス解消には日課の運動とカラオケ?! 実は前述の立花氏は若田さんとカラオケ友達。今回一緒に宇宙滞在するコマンダー、マイケル・フィンクも大のカラオケ好き。カラオケソフトやマイクを宇宙に打ち上げる予定だという。ストレスはためずに解消して、仲間とのひとときを大切に。宇宙も地上も同じですね。
「国際宇宙ステーションとはなにか 仕組みと宇宙飛行士の仕事」
講談社ブルーバックス (若田光一著 企画・編集 林公代)
http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2576287
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