3月31日、フランス人一人、ドイツ人一人、ロシア人4人が火星への旅に出発する。地球を出発後、火星に向かい火星の回りを周回した後、火星に着陸。ミッション達成後に地球に戻る。その間、約105日。でも火星への旅は1年半ぐらいかかるはずでは・・・? 実はこの旅、「MARS500」と呼ばれる模擬火星旅行実験で、モスクワ郊外の医学生物学研究所(IBMP)にある専用隔離施設で行われる。
模擬旅行を実施するのはヨーロッパ宇宙機関とロシアIBMP。参加者は5600人の応募者から選ばれた、フランス人パイロットのシリル・フルニエ氏(40歳)とドイツ人で軍の機械技師オリバー・クニッケル氏(28歳)。そして4人のロシア人(そのうち二人は宇宙飛行士)の合計6人だ。
105日間彼らが滞在する「宇宙船」は医学エリア、研究エリア、クルーの居室、キッチンなど200平方メートルほどの広さがある。出発後は完全に閉鎖され、参加者達は国際宇宙ステーションと同様の宇宙食を食べ、管制室と交信しながら火星に向かい、火星到着後は表面の探査を行い、地球に帰還する。道中には様々な緊急事態もシミュレーションされているし、想定外の緊急事態ももちろん起こるだろう。火星付近との交信は往復約40分かかるが、そうした通信の遅れもシミュレーションする。家族や友人とも時折交信できる。
この実験は、2009年末に行われる520日間の本格的な火星模擬旅行実験に先行して行われるものだ。目的は火星旅行中の長期にわたる閉鎖環境が与える、心理や生理面への影響を調べることだ。ストレスやホルモンバランス、免疫の状態や睡眠の質がどう変化するか、また栄養補助食品の効果も調べる予定になっている。
私は10年以上前にモスクワ郊外のIBMPを訪れたことがある。その時には宇宙ステーション・ミールに滞在している宇宙飛行士の健康状態をモニターする部屋を見学させてくれた。この研究所にはロシアの宇宙長期滞在の経験が蓄積されている。ロシア(旧ソ連)は古くから火星ミッションを目ざし、同様の長期閉鎖実験は過去に何度も行われている。1999年末には日本人も110日間の実験に参加したが、実験参加者同士や運用者との相互不理解などのトラブルがあり、60日目に退出している。閉鎖環境で長くくらす間には、様々な事態が起こりうるのだ。
参加者の一人でエールフランスのパイロットであるフルニエ氏は「MARS500は宇宙探査にとって重要な計画であり、すべての実験を正しく行い、興味深い結果が得られるようにしたい」とコメント。ドイツ人のクニッケル氏は家族の写真と自由時間のために音楽と本を少し持ち込む予定だという。
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