コラム
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2009年 3月分 vol.2
星になったシャトル 打ち上げ体験記
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


打ち上げの瞬間。現地時間3月15日7時43分。  「過去最も美しいシャトル打ち上げだ!」アメリカ・フロリダ州NASAケネディ宇宙センター(KSC)で、この言葉をNASA関係者はじめ、何人に聞かされたことか。私自身もシャトルとロシアのソユーズロケットの打ち上げを昼、夜それぞれ見たが、夕刻から夜空に刻一刻暮れていく空を背景に、シャトルが煌めく一番星となる様はあまりにドラマチックで、涙が出るほどだった。

 今回、若田光一宇宙飛行士の本の編集を担当したご縁で、打ち上げをゲスト席で見られる幸運に恵まれた。プレス席と違い、ゲスト席なら家族を同伴できる。そこで中学3年の次男を連れていくことに。打ち上げ予定日3月11日(現地時間)の前日夜、オーランド国際空港から東に車で約1時間、ココアビーチのJAXAレセプション会場に到着した。

 山崎直子飛行士はじめJAXA関係者誰もが「明日は行きますよ!」と満面の笑み。打ち上げ確率90%だったのに、打ち上げ約7時間前にまさかの延期が告げられた。打ち上げ見学に来る方は3日分の延期を考慮して旅程を組む事が多いが、今回は結果的に4日遅れの15日。打ち上げ当日の朝、涙をのんで去るゲストを見送ると、残った粘り組は半分弱に。

バナナクリークの見学席。大型バスが到着し、奥のひな壇に続々とゲストが場所をとっていく。  私たちは16日の帰国の便しかとれなかったことが幸いした。だが14日にワシントンDCに移動していたので、急遽国内便を手配しオーランドに舞い戻った。専用バスで打ち上げ約3時間前の4時半頃、発射台から6キロ弱離れた見学席、バナナクリーク(Banana Creek Viewing Site)に到着すると、なんと一番乗り! A~Gまであるひな壇の最前列中央を陣取り、となりのアポロ・サターンVセンターでお土産を買ったり、STS-119の記念封筒で手紙を送ったり(打ち上げ日の消印をおして発送してくれるのだ)。スナックを食べたりして時間をつぶす。

打ち上げ42秒前。実際の空はもう少し明るい。ひな壇の前の芝生スペースで見る人たち。奥の四角い建物はシャトル組み立て工場VAB.  打ち上げ約1時間前に席に戻ると、驚くことに駐車場は大型バスでいっぱい(数えると35台も)見学席は埋め尽くされて、編み物に精を出すおばあちゃん、ご主人と手を握りながら発射台を真剣に見つめるご夫妻、などそれぞれに「その時」を待っている。私の隣のおばちゃんは、シャトル製造メーカーの社員だそうで、噴煙がきらきら光るシャトルのバッジをくれた。「若田さんの友達よ」と自己紹介するとワンダフル! と握手された。

 直前に夏時間となったフロリダの日は長く、7時でもまだ明るい。7時半過ぎてようやく夕焼け空になり始めた頃、ライトアップされた発射台が浮かび上がる。KSCの女性職員がアメリカ国家を歌い、全員起立して大合唱。ムードは絶好調だ。これは行くしかない!

 カウントダウンクロックはあるが、カウントダウンはいきなり10秒前から始まる。1ヶ月以上待っていたのに、打ち上げの瞬間は突如訪れた。全員で「ファイブ、フォー・・」と大声を張り上げる。目の前の発射台から白い噴煙が広がって、リフトオフ! オレンジ色の強烈な光を放って眠っていたシャトルがむくむくと立ち上る。しばらく遅れて「バキバキバキ」という轟音と振動(息子いわく「工事現場のような波動」)に包まれる。

噴煙の先に、一番星のようにきらめくシャトルがいつまでも見えていた  雲ひとつないサファイアブルーの空に、シャトルの白い噴煙が軌跡を残していく。固体ロケットブースターが分離されると、「ヒュー!」と拍手と大歓声。二つのブースターがスーッと落ちていく一方で、身軽になったオービターが、煌く一番星となり宇宙目指して加速していく。あの星の中に、若田さんが乗っているんだ。Go! ディスカバリー!

 オーランド在住のガイドさんに言わせると、「昼間や夜の打ち上げではブースターの分離やシャトルの全体像はあれほどくっきり見えない。夕方は一番いい時間帯」とのこと。シャトル打ち上げは延期が悩みの種だが、ソユーズロケットと比べて見せ場が多い。機体そのものの形も華があるし、見学席には飛行士の写真が飾られ近くにお土産が売られ、カウントダウンクロックが時を刻み、NASAテレビは飛行士の今を伝える。雰囲気を盛り上げる演出がある。打ち上げ後、固体ロケットブースターが切り離されるまでの約2分の緊張感、切り離されたブースターが、静かに開きながら落ちるのを見届けたとたん、わき起こる拍手と歓声。轟音と振動、光に包まれるショー。

 ところで、シャトルの打ち上げをKSC内で見るチケットもNASAに隣接したビジターコンプレックスで販売されている。だがココアビーチ沿いでも十分に楽しめる。空港に戻る道路(1A)沿いのコンビニのお兄ちゃんも「前にここから夜の打ち上げを見たけど、空が虹色になって凄かったよ」と言ってたぐらいだ。ビジターコンプレックスではシャトル打ち上げシミュレーションが新しくできて、打ち上げの臨場感が味わえるし、発射台近くや宇宙ステーション組み立て工場を回るバスツアーもある。シャトルの打ち上げは残り10回足らず。是非アナタも、この興奮と感動を生で体験してみてください。

打ち上げを見るには(JAXA宇宙ステーション・きぼう広報センターFAQ)
http://iss.jaxa.jp/iss_faq/faq_sts_04.html