若田光一飛行士の宇宙滞在が5月上旬で50日を過ぎた。長期滞在の折り返し点を過ぎたあたり。ここまで国際宇宙ステーションの太陽電池パネル取りつけという大仕事をこなし、日本や各国の宇宙実験、トイレや水再生装置の設置・メンテナンス。さらに地上と結んだメディアイベントで荒川静香選手のリクエストに応えてイナバウアーまで見せ、ブログや新聞連載3つこなす等の活躍ぶり。しかも常に笑顔。JAXA有人宇宙技術開発グループ山口孝夫さんは「完璧すぎる仕事ぶり」と驚く。なぜ、こんな仕事が可能なのか? 実は宇宙飛行士の仕事術には、地上のビジネスパーソンにとって見習う点が多い。
山口氏がまずあげるのは「コミュニケーション能力の高さ」。日本はじめ、世界の技術者から信頼が厚く「若田のためなら一肌脱ごう」という絶大の人気があるが、それはどこでも誰にでも本音の議論を重ねてきたからだという。基本は「相手の話をよく聞くこと」。反対意見が出ても、「なぜそんな発言をするのか」相手の立場に立って理解しようとする。その上で自分の意見を理論的に説明し解決策を共に考える。とにかくコミュニケーションの人なのだ。相手の迷いがわかるから、若田さんに相談したいなと思っていると電話やメールをくれる。実は宇宙からも、私の携帯に突然電話がかかってきて驚いた。JAXAの同僚にもそうだという。「気遣いするのが自然なんですね。無理してない」(山口さん)
次に見習いたいのは、「仕事の段取りのうまさ」。まずは状況を正確に把握して、やるべき仕事の優先順位をつける。さらに次におこるだろうトラブルを予測しながら作業を正確に行う。実際に、太陽電池パネルの設置操作の時も、ロボットアームの先端の故障箇所を見つけて事なきを得て「さすがワカタ」とファインプレーがNASAから絶賛された。
そして私がいつも驚嘆するのは、若田さんが地上でも宇宙でも「変わらない」ことだ。ストレスをうまく解消しながら「自己管理」する。常に笑顔を見せ宇宙の仲間にも地上のスタッフにも安心感を与える。長期滞在が1ヶ月を過ぎると、精神的にもストレスを感じ始めるというが、今のところ「感じていない」そう。1年宇宙にいてもいいくらいだと。若田さんと長期滞在訓練を共にした野口飛行士も、世界中を回って訓練し「どんなに大変でも辛そうな顔をしない」と驚いたという。若田さん自身、チームのために「弱音をはかず家族を元気づける『肝っ玉母さん』」でありたいと心がけている。
コミュニケーション能力、仕事の段取り、自己管理。どれも地上の仕事の現場で求められる能力が、宇宙でも実はもっとも必要とされる。宇宙飛行士は、チームワークで最大のパフォーマンスを出せる究極のビジネスパーソンなのかもしれない。
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