コラム
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2009年 5月分 vol.2
尿と汗から作る「宇宙の水」。さてお味は?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 5月21日(日本時間)、国際宇宙ステーション(ISS)の水再生システム装置で作られた水を、若田さん達宇宙飛行士が初めて、「チアーズ!」(乾杯)の声高らかに、ごくりと飲んだ。若田さんは「素晴らしいシステムで、この水を飲むことでISSが『ミニ地球』だと実感します」と語った。味については、これまでスペースシャトルやロシアのプログレス補給船で運び込まれた水と変わらないということ。消毒のために加えられているヨード味のフレイバー、ってことですね。

宇宙産の水を手にする宇宙飛行士達。俺の? 誰の? 汗や○○からできた水を 飲めば、一層チームワークも深まる・・? (提供:NASA)  これまで宇宙ステーションでは、水のほとんどを地上から運搬。コップ1杯約30万円という莫大なコストがかかっていた。ロシアモジュールにあるエスエルベーカーと呼ばれる凝縮水加工装置で宇宙飛行士の汗や呼気から出る水蒸気から飲み水を作ることはできていたが、尿は処理できなかった。だから、NASAは尿から飲料水を作ることができるこの装置が大のご自慢だ。ISSに運搬していた水を、65%カットすることが期待されている。水は人間にとって生命線であるだけに、この意義は大きい。水から酸素も発生させることができる。

 どんな装置かと言えば、見かけは冷蔵庫約2台分の結構大きな装置。ISSのトイレで回収した尿を蒸留して水に換え、空気中の湿度を除湿して回収した水、使用済みの水、つまり生活排水と一緒にろ過・浄化処理して飲料水などに使用する。「装置にいれた水分の93%がリサイクルできる」とNASAマーシャル宇宙飛行センターで環境制御生命システムプログラムマネージャーのボブ・バグディギャン氏は語っている。

 尿から不純物を除去するためにまず蒸留するのだが、宇宙では蒸留が難しい。重力がないから熱を加えても、蒸気だけが地上のように分離させることができない。そこで、この装置ではドラムを回転させて人工重力を発生させ、不純物をドラムの外側に、蒸気を真ん中で集めてフィルターに送っている。「宇宙では蒸留自体、チャレンジングです」とバグディギャン氏。「でもできた水は都市用水の基準を満たすか、むしろ超えていますよ」と自信満々である。

 これで、5月下旬にISSにソユーズ宇宙船で3人の宇宙飛行士が到着し、ISS 6人体制が始まっても大丈夫。月面や火星飛行向けにはもっと効率のいいシステムにブラッシュアップしていくぞ、と勢いづくNASA開発陣。だが、再生水は地上で私たちが飲む水と違ってミネラル分を含まない。健康上問題はないのだろうか? 実は、JAXA医学担当者の間でも話題になったそう。だが結論として尿再生水を飲み続けるわけでなく、普通の水も飲むので健康には害を与えないとのこと。ある宇宙飛行士のインタビューで「シャトルの燃料電池で作るヨード味の水は正直、美味しくない。ジュースかお茶にして飲む」と聞いたことがある。尿から水という大きなハードルをクリアしたのだから、次はぜひミネラル成分を加えた「美味しくて健康な宇宙の水」を!