右の写真は2009年3月の国際宇宙ステーションのロシアモジュール内部。ユーリ・ロンチャコフ飛行士が作業している、ちょっと不思議な物体、「マトリョーシカ」という名前です。そう、ロシアの入れ子人形ですね。このマトリョーシカ君(さん?)の身体には数百ものセンサーがつけられています。実は、宇宙ステーションの中や外でどのくらいの量の放射線をあびるかを計測するための実験準備中というわけ。
地球上と宇宙ステーションの環境で、大きく異なるのは無重力、真空、そして放射線。宇宙ステーション滞在中は、地上であびる自然放射線約半年分を一日に受けるなどと言われているが、実際身体のどんなところにどう影響があるのか、よくわかっていない。そこで、人間の組織を模擬して作られたフェイクアストロノート「マトリョーシカ」を国際宇宙ステーションのロシアモジュールの外(船外活動の影響を見るため)や中において、センサーを皮膚近くや内部まで差し込み、放射線の被爆量を測定する。ロシア・ヨーロッパ、日本などの共同研究だ。日本の放射線計測器は頭部に搭載される。
NASAのウェブを色々見ていたら、この「マトリョーシカ」を別のページでも発見。アポロ16号と17号の間の1972年8月に、大規模な太陽フレア(爆発)が発生していたという。フレアが起こると大量の放射線がやってくる。月には地球と違い、遮蔽してくれる大気も磁場もなく、もろに放射線に晒される。1972年8月2日には太陽に最大級の黒点ができて、一週間以上にわたって太陽フレア(爆発)を起こした。宇宙飛行士が月面にいれば致命的なダメージを受けたかもしれない。
では月面にもしアポロ飛行士がいたらどんな影響が出たのか、1972年8月2日の太陽フレアによる放射線被曝を模擬した実験が「マトリョーシカ」を使って、行われている。場所はNASAのブルックヘブンにある宇宙放射線ラボ。人工的な太陽フレアをおこし、フェイクアストロノートに照射した。身体の部位によってかなり違いがあったようだ。往復に時間がかかる月や火星飛行の場合は、放射線被曝が健康上、最も大きな課題の一つ。どこをどう防護すればいいか、こうした研究が役立てられるだろう。そしてもちろん、日本は放射線医学が発達している国。今回、若田飛行士は特別に開発された個人被爆線量計を宇宙に持っていった。縦横5センチ、厚さ9ミリ、15グラムという小型軽量のスグレモノだ。またヒト細胞を用いて、放射線に対するガン抑制遺伝子の働きを調べる生物実験も行われている。放射線の影響や、放射線を被曝した後の遺伝子の反応はまだまだわからないことが多いのだ。そういった実験は日本が長く続けてきた得意分野でもある。
世界が取り組む放射線医学。今のマトリョーシカ君は二代目だが、まだまだ出番が続くかもしれない。
NASA 1972年当時の月面の放射線被爆実験(英語)
http://science.nasa.gov/headlines/y2009/03jun_fakeastronaut.htm?list37638
NASA マトリョーシカ2 医学実験について(英語)
http://www.nasa.gov/mission_pages/station/science/experiments/MTR-2.html#images
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