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2009年 7月分 vol.1
「脱・中年」と「新婚さん」。宇宙飛行士訓練3ヶ月の変化
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


会見で力こぶを見せる二人。油井さん(左)の力こぶに注目!  今年の2月に宇宙飛行士候補者に選ばれた、元航空自衛隊の油井亀美也さんと元全日空の大西卓哉さんが、4月1日から国内訓練を開始。7月1日に訓練を公開した。二人とも気負わず、臆せず淡々と訓練に集中しているのだが、外見上気になる変化が二つ。油井さんは、半袖シャツからのぞく「力こぶ」。そして大西さんは、左手の薬指に光るエンゲージリングだ。2月の会見時は確か独身だったはず・・・。

 訓練に続く記者会見で、さっそく真相(?!)が明らかになった。国内訓練は、8月からNASAで米国人たちと一緒に行われる訓練の前に、基礎的な宇宙の知識と語学力・体力をつけるのが目的。週2回の体力訓練に関しては、宇宙飛行士は船外活動を行う際、上半身、特に腕の力で手すりを使って移動するため、油井さんは「上半身を鍛えている」とのこと。2月の決定後会見では39歳という年齢のため「中年の星になりたい」と言っていた油井さんだが、「体脂肪率も減って、体は中年ではなくなった」。3ヶ月で体を改造できるなんて、それこそ「中年の星」では?

 一方、大西さんは4月に入籍。厳しい訓練に入る前に、くつろげる家庭環境を作りたかったとのこと。「宇宙飛行士に選ばれたら結婚する約束だったんですか?」の問いには「選ばれると思ってなかった」と照れ笑い。NASAの宇宙飛行士候補生たちは家族ぐるみのつきあいになるため、8月の渡米後も早めにアメリカに呼びたいということで、公私ともに充実しているお二人のようである。

 さて、NASAも6月末に宇宙飛行士候補者を9人発表したが、うち4名はパイロットだという。日本人の二人もパイロット。なぜこれほどパイロットが多いのか? 油井さんは元航空自衛隊のテストパイロットだが「技術者と運用者を橋渡ししてきたが、宇宙飛行士も技術者や科学者の意図をくんで宇宙ミッションを運用する点で共通点が多いと感じた。また、実際の操作で、注意配分や状況認識能力が必要とされる点も似ている」と指摘。NASAの候補者も軍出身者が多いので「仲良く楽しみながら競争心は忘れずにいたい」と、早くもライバル心がわき上がっている様子。

日本実験棟・きぼうのロボットアーム操作訓練をする大西さん。「操縦桿はかなり敏感に反応するから、次の動きを予測しながら正確にコントロールするのが難しいですね」。  一方、全日空の副操縦士だった大西さんは「民間機のパイロットは、完成した飛行機をいかに使いこなしていくかが焦点で、開発に参加するテストパイロットとは違う。だが、訓練付けの日々の中でいかに自分を律するか、ロボットアームの操作にしても複数のモニターから得られる情報を頭の中で素早く処理する能力は、パイロットに必要な能力と同じ。NASA訓練で民間パイロットは自分一人だが意地を見せたい」とのこと。

 会見を見守っていたJAXA職員は、「彼らは選抜中も飛行士候補者に選ばれてからも、人柄や基本姿勢はまったく変わらない。それがパイロットの資質以上に大事な点かもしれないね」と語った。どんな状況におかれても自分を見失わないってことですかね。これからのお二人のどこが変化し、どこが変わらないのか、楽しみです。