コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.18
地球によく似た惑星、ついに発見?
 地球のような惑星は、どこかにあるのだろうか? そういった惑星があったら、果たして地球と同じように生命は、そして宇宙人はいるのだろうか。天文学者だけでなく、おそらく読者の皆さんにとっても興味のあるテーマだろう。先月は、球状星団の中の青い星の存在が、”宇宙人”の証拠ではないか、というロマンあふれる仮説を紹介したが、その直後、上のテーマに直結するような発見がニュースとなった。そう、地球とよく似た(はずの)惑星の存在が明らかになったのである。

地球に似た系外惑星が発見された恒星グリーズ581。(提供:国立天文台)  実は、これまで天文学者は、太陽以外の恒星の周りにある惑星(系外惑星)を次々と発見している。その数は、1995年の最初の発見から増え続け、すでに220個を超えている。ただ、これまで発見された系外惑星のほとんどは木星のようにガスが主成分の大きな惑星であり、地球のように地面を持っていないものばかりであった。発見手法の限界が、その理由である。

 もともと惑星の光はあまりにも微かなので、直接は見えることはない。東京から100キロメートル離れた富士山頂に電球をおいたとする。その電球の光が、恒星だとすれば、惑星の光は、その電球のまわりを飛び回る蚊の光にも満たない。望遠鏡で富士山頂の電球は見ることはできても、蚊を見分けることはできないのである。

 そのかわり、惑星が回っている中心の星の光を注意深く観察する。つまり、電球そのものを観察するのである。惑星がその星を回るたびに、星の光は、ほんのわずかに揺らぐ。この揺らぎの周期と大きさを観測することで、「間接的に」その恒星の周りを回っている系外惑星の重さや周期がわかるのである。この手法では系外惑星が大きければ大きいほど、恒星の揺らぎも大きくなって見つけやすくなる。そんなわけで、これまで発見された系外惑星のほとんどは、地球の十倍も百倍もある木星型の巨大なガス惑星ばかりだったのだ。

 それでも天文学者は観測装置の改良を続け、もっと微かな光の揺らぎまで捉えられるようになってきた。そして、年を追うごとに、発見される系外惑星の質量はどんどん小さくなっていった。2004年には、ヨーロッパ南天天文台が、地球の14倍程度の惑星を、さらに翌年にはカリフォルニア・カーネギー惑星探査チームが、地球の5.9~7.5倍程度の惑星を発見したのである。このレベルになると、地球のように表面が岩石で覆われている地球型惑星ではないか、と期待も高くなってくる。

 ところが、これらの惑星は地球と同じように水の惑星になっているかというと、残念ながら、これまではそうではなかった。あまりに恒星に近すぎて、熱すぎるのである。カーネギー惑星探査チームが発見した系外惑星の表面温度は摂氏200度から400度と考えられるのである。これでは表面が熱すぎて、水は蒸発してしまっているはずだ。地球型の惑星が表面に水をたたえるような環境となるためには、地球型であり、なおかつハビタブル・ゾーンと呼ばれる領域になくてはならない。ハビタブル・ゾーンとは、惑星の表面にある水が液体の状態でいられるような領域を指す。いってみれば「生命存在可能領域」で、中心の恒星からの距離が適切である必要がある。太陽系で言えば、地球の軌道近傍が、それに相当する。

 チリにあるヨーロッパ南天天文台の望遠鏡で、今回、新たに発見された新しい惑星は、地球質量の5倍程度、大きさでいえば地球の1.5倍程度と思われる系外惑星であった。この惑星はてんびん座の方向、20.5光年の距離にあるグリーズ581という恒星のまわりを約13日周期で公転している。この大きさだと地球のように表面が岩石で覆われている地球型惑星の可能性が非常に高い上に、ハビタブル・ゾーンに入っている可能性が高いのである。

 グリーズ581という恒星は、質量が太陽の三分の一ほどの、小さくて赤い、低温の恒星である。星の温度を考えると、この惑星の軌道付近では、その表面温度が摂氏0度から40度程度となる。つまり水が存在する惑星の条件に合致するわけだ。地球型で、なおかつ水が存在できる生命存在可能領域にある、という両方の条件を満たす系外惑星の発見は初めてである。

 もともと、この星の周りには海王星程度の質量の系外惑星がすでに見つかっており、また同時に地球質量の8倍程度の系外惑星の存在の兆候もつかんでいるらしい。つまり、この恒星のまわりには少なくとも3つの惑星が存在しているようだ。

 果たして、この惑星の表面は地球のように海があるのか、そして生命は存在するのか。まだ、その惑星そのものを詳しく調べる技術はないが、期待が高まることは間違いない。どうやら、宇宙には少なくとも地球によく似た惑星が存在することは確かなようだ。


ヨーロッパ南天天文台プレス・リリース(英語)
http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2007/pr-22-07.html