コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.21
夏の終わりの皆既月食を楽しもう
 いよいよ夏休みも終わりである。皆さんは夏の星空を楽しんだだろうか。猛暑もあったせいか、全国的に天候に恵まれ、ペルセウス座流星群を眺めたという人も多いだろう。ところで、この夏はもうひとつの珍しい天体ショーがある。8月28日に起こる皆既月食である。日本全国で見える皆既月食としては、2001年1月10日以来の6年ぶりとなる。
2007年8月28日 皆既日食の様子(提供:国立天文台)
 月食とは、太陽-地球-月がほぼ一直線に並び、月が地球の影に入り込む現象である。月は太陽光を反射して輝いているので、地球の影に入り込むと、まるで月が欠けてしまったかのように見える。地球の影には、太陽光の一部だけが遮られた「半影」と、太陽光の大部分が遮ら れた「本影」の2種類ある。月が半影に入る半影月食という現象もあるのだが、目で見ただけでは月食なのかどうか、はっきりとはわからない。通常の月食は、本影に入るケースをいう。本影は暗いため、月が本影にはいると目で見ても月が欠けていることがわかる。月が本影をかすめていき、一部分は半影のままだと、どうしても全体は暗くならず、明るく見える。これを部分月食と呼ぶ。一方、月全体が本影にすっぽりと入り込む場合を皆既月食と呼ぶ。今回の8月28日のケースは、この皆既月食である。

 ところで、皆既月食の最中の月には太陽の光が届かないので、本来であれば真っ暗になるはずである。ところが、実際には、わずかに赤い光が入り込み、皆既中の月は「赤銅色」と表現される赤黒い色になることが多い。これは地球の高層大気を回り込んで、本影の中に入り込む太陽の光のうち、青色の光は散乱されて、赤色の光だけが残るからである。もっとも、大規模な火山爆発などがあると高層大気に火山灰が舞うため、その赤い光も届かなくなって、皆既中の月が全く見えなくなったりするのだが、今回はその可能性はなさそうで、赤く美しい月を眺められそうである。

 また、観察する上でも今回の皆既月食は、とても条件がよい。条件の一つが皆既月食が起こる時間帯である。夕刻から始まって、深夜には終わるので、子供を含め、多くの人にとって観察しやすい。まだ学校が夏休みという地域もあり、観察しやすい季節というのもあるだろう。

 さらに、もうひとつの条件が、約1時間半という長い皆既の継続時間である。そもそも本影に入り込む月食の始まりは、17時51分なのだが、この時刻には、日本のほとんどの地域で、月がまだ地平線の下にあって、眺めることができない。たとえば東京では月の出が18時11分なので、月食が始まった状態、すなわち欠けた状態で東の地平線から昇ってくることになる。ちなみに、こうした月食を月出帯食と呼ぶ。一般に、東日本ほど月の出は早いので、月食を観察できる時間は東日本ほど長くなり、同時に皆既月食が始まるときの月の地平線からの高さも、東日本の方が高く、条件が良いことになる。一方、那覇あたりだと皆既月食の直前に月の出になる(上図参照)。もし皆既月食の継続時間が短いと、月が十分な高さになる前に終わってしまうこともありうるが、今回は1時間半もあるので、西日本でも、月は皆既月食の状態のまま、かなりの高さになるはずである。

 皆既食の開始は18時52分。赤銅色の月が姿を現し、このあと約1時間半ほど続くことになる。食の最大、つまり月が本影の中心に最も近づくのは、19時37分。赤銅色の月の明るさも最も暗くなるに違いない。再び本影の縁から月が現れる、つまり皆既月食が終わるのは20時23分である。ここから約1時間ほどかけて、月は本影を離れていき、月に満月本来の明るさが戻り始める。こうして部分月食も、21時24分には終わる。(ちなみに、この段階でも月は、まだ半影の中にあるが、22時23分には、その半影からも抜けだし、今回の月食は完全に終了となる。)

 鈍く赤く光る皆既月食中の月は、とても美しいものだ。ぜひ皆さんにも、ご覧いただきたい。各地の公開天文台では月食を見る会を催す他、月食の様子をインターネットで中継するところもある。天気が悪くても、家の中で観察することもできるので、便利である。国立天文台では、より多くの方にこの皆既月食という現象を観察してもらうため、「皆既月食どんな色?」というキャンペーンを行っている。

 月食をただ眺めるのではなく、皆既月食中の月がいったいどんな色に見えるのかに注意して、その時の月の色、観察時刻、観察方法、観察地などをインターネットか、携帯電話で報告してもらうものだ。ちょっとした天文学者の気分になれるよう、スケッチ用紙なども用意しているので、ぜひ挑戦してほしい。ちなみに次回の皆既月食は2010年12月21日である。


皆既月食どんな色?
http://www.nao.ac.jp/phenomena/20070828/index.html