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実は、筆者は先月の24日から、ちょっとした睡眠不足が続いている。というのも、
24日の夜から25日にかけて、ホームズ彗星というまったく目立たなかった彗星が大増光を起こし、肉眼でも簡単に見えるほどの明るさになったからである。それ以来、観測のコーディネートはもちろん、広報のための資料作成や、取材対応などで、目の回る忙しさが続いているのである。
大きな彗星は、しばしば長い尾をたなびかせ、夜空に輝くために、ほうき星とも呼ばれる。歪んだ軌道をもつものが多いので、太陽に近づいたり、遠ざかったりするが、本体である核は氷が主成分なので、太陽に近づいた時に氷が融け出す。同時に氷に含まれていたガスやちりが吹き出し、太陽の影響で、太陽と反対側に流れ出していく。これがほうき星の尾の正体である。ただ、多くの彗星は、望遠鏡を用いないと見えないほど暗く、尾が見えないことが多い。このコラムの5回目でも紹介したシュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星も、そんなに大きな彗星ではなかった。地球に近づき、またバラバラに分裂したために、明るくなるかもしれないと期待されたのだが、残念ながら肉眼で簡単に見えるほどにはならなかったし、望遠鏡でもはっきりとした尾は見えなかった。
ところで彗星という天体は予測不可能な振る舞いをすることが多い。小さな彗星でも、しばしば突然、その明るさを増すことがある。アウトバーストと呼ばれ、彗星核から一時的に大量の塵やガスが吹き出す現象である。かなりの数の彗星で、こういった現象は観測される。ただ、その光度の上昇幅は、せいぜい数等から5等止まりである。5等といえば、明るさに換算すると100倍になる計算なので、すごい増光と言えるのだが、このホームズ彗星の場合は、それどころではない。23日までの明るさは約17等だったのだが、24日から25日にかけて、明るさが急上昇し、ついに約3等になってしまったのである。光度幅は14等、ざっと40万倍という計算だ。彗星のアウトバーストは、数多く観測されてはいるが、これほどの規模のものは耳にしたことがない。
おそらく記録に残る彗星のアウトバーストでは、史上空前の規模と言っていいだろう。
ホームズ彗星は、もともと小さな目立たない彗星である。歴史は古く、1892年にさかのぼるが、このときにイギリスのエドウィン・ホームズによって発見された彗星で、約7年で太陽を公転している短周期彗星である。1899年と1906年にも回帰が観測されたものの、その後は1964年まで行方不明になっていた。それほどいつもは暗いという証拠だろう。前回の回帰である2000年の時にも、明るさは16等どまりであった。今回も、太陽に最も近づく5月頃でも、せいぜい15等と、まったく注目されることのない彗星であった。しかし、太陽から離れる途中の10月24日から急増光したわけである。実は、この彗星自身も過去、発見時の1892年に、今回のような大増光を起こしていたと考えられる。当時も約4等で観測されていたからである。その意味では、この
彗星にとっては、実に115年ぶりのアウトバーストといえるかもしれない。
いずれにしろ、これだけ大きなアウトバーストがなぜ起きるのかは、よくわかっていない。休火山のような場所が、口を開けて、中から氷が一挙に吹き出したのではないか、あるいは隕石のようなものが衝突したのではないか、さらには核が分裂したのではないか、と様々な説があるが、全くわかっていない。世界中で、様々な望遠鏡が観測を行っている最中である。
ところで、アウトバーストを起こした彗星は、たいていは数日ほどで暗くなっていくものなのだが、ホームズ彗星の場合は、予想に反してバーストから一週間ほど経過するにもかかわらず、まだそれほど暗くなっていない。そのため、11月になっても肉眼で見え続けている上、次第に見かけの大きさが広がりつつある。国立天文台の観測から、そのスピードを計算すると、11月中旬には満月ほどの大きさになると考えられる。ただ広がれば広がるほど、薄くなってしまうので、見にくくなることは間違いない。
幸い、それまでは月明かりの邪魔がないので、暗い夜空の元なら、ぼやっと広がった大きな雲状のホームズ彗星の姿が眺められるだろう。双眼鏡があれば、はっきりとわかるはずである。ちなみに彗星に特有の尾はほとんど見えないと予想される。というのも彗星の尾は、一般に太陽と反対の方向に伸びるのだが、ホームズ彗星の位置が、地球から見て太陽と反対方向に近いため、尾が発達したとしても、視線方向に伸びてしまい、見えにくいからである。(ただ、撮影すると尾が伸びはじめているのが確認できるようだ:上図参照)
国立天文台では、このホームズ彗星を、多くの人に眺めて頂くため、「ホームズ彗星を眺めよう」緊急キャンペーンを企画し、実施している。さらに11月8日の夜には、天候に恵まれれば、インターネットによる彗星の生中継も予定している。なにしろ人類がこれまで目撃したことがない規模の現象なので、今後、この彗星がどのように変化していくか、よくわからない。ぜひ皆さんの目で確かめて欲しい。
「ホームズ彗星を眺めよう」緊急キャンペーン ―国立天文台―
http://www.nao.ac.jp/phenomena/20071102/index.html
携帯電話用ページ
http://www.nao.ac.jp/i/phenomena/20071102/
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