七夕の季節になると、天の川の両岸に輝く織り姫星、彦星が一躍脚光を浴びる。こと座のベガとわし座のアルタイルという二つの一等星である。天の川の中にある星座:はくちょう座の一等星デネブを含めて、三つの一等星で形作る三角形を、夏の大三角と呼び、夏の夜空のランドマークとなっている。筆者の住む東京近郊では、もはや織り姫、彦星を分かつように流れる天の川などを眺めるのは望むべくもなく、夏の大三角の三つの星が輝くだけである。それでも日本の中にも、夜空のきれいな場所がまだまだ残されており、天の川を眺めることができる。そして、天の川の中にも一等星ほどではないにしても、きらきら輝く星たちの姿を眺めることができるのである。
天の川の中に埋もれたように輝く星座には、暗い星ばかりの比較的小さな星座が多い。夏の大三角の三つの星の間に囲まれている領域には、や座とこぎつね座があり、その東側には、いるか座とこうま座が、わし座の南にはたて座といった小さい星座がある。これらは88星座の中でも小さい部類で、最小の星座であるみなみじゅうじ座に次いで、こうま座は第二位、や座は第三位、たて座が第五位となる。小さな星座というのは、一般に新しい星座が多い南天に偏っているものだが、これらは結構古くからの由緒ある星座である。明るい星が少なく、暗い星ばかりで結んだ星座ばかりだが、星座そのものがコンパクトなこともあって、一度目にすると忘れないものも多い。たて座とこぎつね座は17世紀にポーランドの天文学者ヘベリウスによって設定された星座であるが、や座、こうま座、いるか座の三つは、古くから星座の集大成となったプトレマイオスの48星座に含まれ
ているほど由緒正しい星座である。
や座は、4つの星が、本当に”矢じり”のような形に並んでいる。そのために、この星の配列を矢と見立てていた文明は多い。この矢は、となりのわし座に向けて、勇者ヘラクレス(ヘルクレス座)が、放った矢という説と、愛の神エロスの矢という説がある。エロスの矢は、当たった者を誰でも恋の虜にしてしまう、という力があるというので、有名である。恋の矢がある場所が、ちょうど織姫星と彦星との間、彦星側にあるのも何かの偶然だろう。ただ、矢の向きは、双方の間を通り過ぎる方向なのだが。。。
や座の南東側、天の川から離れた場所に輝くいるか座もわかりやすい。4つの四等星がコンパクトな菱形を作っていて、そこから尾が伸びている形は、確かに海面に跳ね上がったいるかの姿に見える。神話では、海の神ポセイドンの使いとされている。いるか座の東隣にあるのが、こうま座である。さらに隣には秋を代表する星座:ペガスス座が輝いているが、その頭の部分に重なるように、同じような馬の頭を描いている古い星座絵が残されている。こうま座はペガサスの弟ケレリスという馬だと伝えられているので、親子で並んで走る馬を想像したのだろう。
や座の北にあるのが、こぎつね座である。新しい星座だけに、神話はない。ヘベリウスは、グリム童話の「キツネとガチョウ」から採ったとされている。ただ、星をつないでもとてもきつねには見えない。天の川に埋もれ、わし座といて座の間に、たて座がある。星座を設定したヘベリウスがポーランドの天文学者だったことから、ポーランドの王で英雄と親しまれたヤン三世ソビエスキが持っていた楯とされ、もともとソビエスキの楯座と呼ばれていたが、そのうちに単なるたて座となった。この星座も4等星より暗い星ばかりでできていて、なかなか探すのはたいへんである。
夏休みも近く、これから空のきれいな場所に出かける人もいることだろう。そんな夜に、晴れて、月明かりのない星空に出会ったら、ぜひ十分に目を慣らして、天の川の周辺に輝く、これらの目立たない、小さな星座も探し出してみてほしい。 夜の22時から23時頃には、これらの星座は南天高く輝いているはずである。
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