今月は、久しぶりに北の空に注目してみよう。
北の夜空には、北極星の周りをぐるぐる回っているだけで、地平線の下に沈まない星々がある。これらは周極星とよばれている。もちろん、観察する場所の緯度によって、周極星はずいぶんと違ってくる。当然、緯度が高いほど北極星の見かけの高度も高くなるため、周極星も多くなる。
北海道北部では、あの有名な北斗七星のどの星も北の地平線に沈むことはなく、一年中見ることができる。まさに周極星になっているのだが、沖縄まで行くと北斗七星の七つの星は一つ残らず地平線の下に沈んでしまう。北斗七星と並んで、北の夜空で有名な星座といえば、5つの星がW字型をなすカシオペヤ座だろう。このW字の5つの星は、沖縄ではやはり地平線にすっぽり沈んでしまうのだが、北斗七星より北極星に近いため、関東地方あたりでは、すべてが周極星になっている。このカシオペヤ座が北の空高くのぼってくるのが、ちょうど今頃、秋の季節になる。9月中旬だと、午後8時頃には北東の空に、Wの字を縦に並べた形でのぼってくるのがわかるだろう。
W字をなす5つの星のうち、2つが2等星で、残り3つが3等星だが、何しろ明るい星の少ない秋の夜空、特に北の空では、よく目立つ星座である。日本では、このW字型を山に見立てて、山形星(やまがたぼし)と呼んでいる。また漁師の間では船を係留する錨の形に見立てて、錨星(いかりぼし)と呼んだりしていたそうである。
夏の夜には、カシオペヤ座は夜明け前になると北の空に高く上がってくる。そうすると、漁師達は「錨星が高くなったので、夜明けが近い」と言って、時刻の目印にしていた。まさに北極星を回る周極星ならではの使い方ではある。もともと星をよく見る文化は、メソポタミアやエジプトなど砂漠で発達した文明の中で、時刻や季節そして方角を知る必要から生まれているのだが、日本でもこうした使い方がされていた証拠であろう。もちろん、現代では時計があるので、こうした星を使って時を知る必要はなくなっているのだが。
ところで、カシオペヤ座は北極星を探す目印となる星座としても、北斗七星と並んで有名である。皆さんも小学校などで習ったことをおぼえている人もいるだろう。まず、W型のそれぞれの端の2つの星を結んで伸ばし、交点を作る。その交点とW型の中心の星を結び、それを約5倍ほど伸ばすと、北極星にたどり着くのである。北斗七星に比べるとやや複雑な探し方になるので、慣れないとわかりにくいかも知れない。いまの季節だと、北斗七星は北の地平線近くにあり、見にくくなっているため、かわりにカシオペヤ座が使われることが多い。しかし、これも先の例と同様、GPSなどが発達した現代では、実際にこのようにカシオペヤ座や北斗七星を使って方角を知る人は、ごく一部の天文ファンに限られているにちがいない。
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