昨年の天文界のトップニュースといえば、なんといっても系外惑星の直接撮像の成功ではないだろうか。太陽系以外の恒星の周りにも惑星が存在することが明らかになったのは、1995年のことだった。ペガスス座51番星のまわりに、木星型惑星が発見され、以後、続々と発見され続けており、すでにその数は300を超えている。これらは、太陽系以外の恒星の周りの惑星という意味で、系外惑星と呼んでいるのだが、これまでの発見はすべて間接的なものであった。第18回のコラム「地球によく似た惑星、ついに発見?」でも紹介したように、惑星はあまりに暗く、直接捉えることはできていなかった。その一節を、再掲しよう。「系外惑星の光はあまりにも微かなので、直接は見えることはない。東京から100キロメートル離れた富士山頂に電球をおいたとする。その電球の光が、恒星だとすれば、惑星の光は、その電球のまわりを飛び回る蚊の光にも満たない。望遠鏡で富士山頂の電球は見ることはできても、蚊を見分けることはできないのである。」だが、やはり直接、その姿を捉えたいと誰もが思う。
世界中で、誰が直接捉えるか、レースが始まっていた。もちろん、こういった先陣争いには、勇み足も起きやすい。1998年5月に流れた、ハッブル宇宙望遠鏡で「系外惑星を直接撮影した」というニュースは、かなりセンセーショナルだった。おうし座の TMR-1と呼ばれる連星を赤外線で観測中に、連星から細く長いガスが糸のように伸び、それがかすかに光る天体につながっていたのである。この天体が、原始惑星ではないかとされたのだが、なにしろ連星から約1400天文単位も離れていること、かなり明るいことなどから、後の観測で惑星ではないと否定されてしまった。さらに、2005年には、ヨーロッパの研究者らによって、おおかみ座GQ星の周囲の「惑星候補天体を直接撮影された」というニュースがあった、これはあくまで惑星の可能性のある天体の発見であり、最終的には違ったようである。
だが、今回は本当らしい。日本では、これまでの経緯があって狼少年になっているのか、この発見はあまり大きく報道されなかったが、欧米では大騒ぎだった。その発見は、秋の夜に輝く一等星でなされた。みなみのうお座のフォーマルハウトのまわりをまわる系外惑星を、ハッブル宇宙望遠鏡が直接捉えたのである(上図参照)。もちろん、中心の星の光は明るすぎるので、コロナグラフという手法でかくして撮影されている。もともと、フォーマルハウトのまわりには大量のチリが、円盤として残されており、リングのように明るい部分がある。そのリングは完全に丸くないので、どっかに惑星があるのではないか、とされていた。実際、発見された惑星は、チリのリングのすぐ内側であった。土星の環と衛星のような力学的な相互作用をしているのかもしれない。この発見で、大事なことは、その惑星と思われる天体の位置が、2004年と2006年の撮影時で違っていることだ。つまり、天体が確かに動いている、恒星の周りを公転していることが確認されたのである。この惑星の動きから推定した公転周期は872年。中心星からの距離は100天文単位、つまり地球と太陽の間の距離の約100倍ということになる。これは太陽系で言えば、かなり遠い惑星である。もともと系外惑星は間接的な方法では、恒星に近いところで続々と見つかっているが、遠いところにも存在するという例になった。
この発見の報道と同時に、ハワイ・マウナケア山頂にあるジェミニ望遠鏡でも、ペガスス座にあるHD8799という恒星の周りに3個もの惑星を直接撮像した結果が発表された。系外惑星の観測は、間接的な発見の時代から、直接撮像の時代へと突入しつつある。もちろん、まだまだ撮影された惑星は「点」にしか過ぎないが、やがてこれらの惑星の大気成分や、技術が進めば、個々の惑星の表面の模様などが見えてくるだろう。なんと、わくわくする時代である。
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